《私は体を動かすことが好きです。(中略)生活にも活気が出るし、すべてのことに意欲が出るし、私がいま生きてるという生きがいを実感することができます。》
20年前、JR新大久保駅でホームに転落した男性を助けようとして犠牲になった韓国人留学生、李秀賢(イ・スヒョン)さん=当時(26)=が亡くなる前年の平成12年9月、通っていた赤門会日本語学校で書いた日本語の作文だ。
釜山生まれで高麗大生だった李さんは、アルバイトで費用をため、11年11月から日本に留学。マウンテンバイクで富士山登頂するなどスポーツが好きで、「スポーツを通して日韓の懸け橋になりたい」という夢を持っていた。
事故に遭ったのは、日本の大学院でスポーツについて学ぼうと留学を延長した矢先だった。
李さんとともに救助に当たり亡くなったカメラマンの関根史郎さん=同(47)=の部屋にも、マウンテンバイクがあった。それを見たのは、李さんの遺体を最初に確認し、事故後に関根さんの自宅を訪ねた赤門会日本語学校の新井時賛(ときよし)理事長(71)だ。
2人に共通の趣味があったことは偶然だが、新井さんはそのとき、勇気ある行動をとった2人の深い関係を感じたという。「関根さんの存在も忘れないでほしい」と新井さんは願う。
■留学生支える基金
李さんの母、辛潤賛(シン・ユンチャン)さん(70)は事故後、日本語学校の関係者に支えられ「悲しんでいるより一生懸命助けてくださる方のために、何かしたいと思えるようになった」と振り返る。
新井さんらの尽力で、夫の李盛大(ソンデ)さんとともに翌年、弔慰金などを基にした「LSHアジア奨学会」を設立した。LSHは息子の名前の英語の頭文字だ。運営を寄付で賄い、これまでに日本語学校に通うアジアの留学生約1千人を支援してきた。