児童生徒らへのわいせつ行為で失効した教員免許の再取得を厳しくする法案について、文部科学省は今通常国会への提出を断念した。
わいせつ教員を教室に戻してはならない。文科省は、改めて法改正に取り組むべきだ。
教員免許法では、わいせつ行為などで懲戒免職や禁錮以上の刑に処せられると免許は失効するが、最短3年で再取得できる。これに対し保護者らでつくる市民団体などが、わいせつ教員を再び教壇に立たせないような法改正を求めていた。
文科省は、再取得できない期間の延長や無期限にすることを検討していた。しかし、憲法が定める「職業選択の自由」に反するとの指摘や、禁錮以上の刑でも終了後10年で消滅する刑法の規定があることなどから、内閣法制局が法改正に難色を示していた。
憲法22条による職業選択の自由は「公共の福祉に反しない限り」と明記され無制限ではない。多くは被害者が子供である特殊事案である。刑法の「刑の消滅」と矛盾するなら、教員免許法を特別法として優先させればいいことだ。
文科省の調査によれば、わいせつ行為やセクハラで昨年度に処分された教員は273人で、過去2番目の多さだった。このうち170人は自校の児童生徒を含む子供を相手にしている。信頼していた先生からわいせつ行為を受けた子供たちのショックは大きい。沖縄県では平成25年、中学3年時にキスなどをされた女子生徒が1年後に自殺する事件も起きた。
文科省は2月から、懲戒免職となった教員のデータを検索できるシステムの閲覧期間を、現行の過去5年間から40年間へと大幅に延長する。各地の教育委員会が、処分歴があるとは知らずに教員を採用するのを防ぐためだ。
こうした措置は、わいせつ教員を再び教壇に立たせない取り組みとして高く評価したい。だがそれで十分とはいえない。わいせつ教員をめぐっては各教委で処分に差があるなど対応が分かれている。検索漏れや、私立学校に入り込む可能性もある。法改正によって厳格に教室から遠ざけるべきだ。
わいせつ教員の教壇復帰は、子供たちや保護者を不安にさせ、学校の信頼を揺るがす。犯行時の環境に戻ることは当の教員にとっても更生の阻害要因となる。何もいいことはないはずだが。