女性昆虫学者が世界初解明、コケに化けるイモムシのツノ

女性昆虫学者が世界初解明、コケに化けるイモムシのツノ
女性昆虫学者が世界初解明、コケに化けるイモムシのツノ
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 どこにいるのか、まるで隠し絵-。見事にコケに擬態しているのはシリブトガガンボ亜科の幼虫だ。自然界で見つけるのも難しく、詳しい生態は知られていない。この小さなイモムシをめぐり、愛媛大学大学院理工学研究科の今田弓女(いまだ・ゆめ)助教(32)=昆虫生態学=が、やわらかいツノのような突起「肉質突起」が多面的な役割を果たしていることを世界で初めて解明した。論文は英国の国際学術誌にオンライン掲載された。

採集するのも一苦労

 「ガガンボ」はハエやカの仲間で、成虫はカを大きくした姿に似ている。幼虫の大きさは数ミリ~1センチ程度。色は茶色や黒、白いのもいるという。一般にガガンボ類の幼虫は土や落ち葉の下、水中などにすんでいるのに対し、シリブトガガンボ亜科の幼虫は植物に巧妙に擬態。特にコケの上にすむ幼虫は体の色だけでなく、肉質突起と呼ばれる構造物を持っている。

 「全体に突起があって形が面白い。研究したいと思った」と研究に取り組んだ今田さん。テーマは大きく2つ。1つはどこで暮らし何を食べているのかという生態学的な研究で、もう1つは特徴的な突起が何に使われているのか解き明かすことだった。

 しかし、まず採集が難しかった。幼虫は小さいうえ、あまりに見事にコケに擬態しているため見つけることが困難。「森に入ってはいつくばって探すしかない。訓練した目が必要で、私は2年くらいかかりました」(今田さん)。主に高知、愛媛県の山中を調査フィールドとしているが、発見には運も必要で、一日中探して1匹も見つけられないこともあるという。

毒もなく痛くもないツノ

 そうした苦労の末にまとめた今回の論文は、過去約10年間にわたる調査で発見するなどした日本列島と北米大陸の5属11種の幼虫を記載。飼育と行動・形態の観察によって生活史を解明している。

 「毒もなく触っても痛くないやわらかいツノ。何のためにあるのか。突起があることで体液や空気を隅々まで送り込まなければならず、脱皮の際にはリスクが伴う。突起を持つということはそれだけで生存にとっては不利だ。さらに、もともと土の中にいた虫なのに地上に出てきたことで、捕食者に狙われる恐れが増えた。多くの不利を上回るだけのメリットがなければ突起は持たないだろう」

 こう考えた今田さん。研究によると、シリブトガガンボ亜科の幼虫はすべて植物食だったが、生育環境は陸上から水中に至るまで多様で、食性の異なる種同士では体の色や肉質突起、行動習性が異なっていた。こうしたことから今田さんは「肉質突起があるなどの形態の違いは、天敵のいる環境への適応である可能性が示唆された」と指摘した。

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