孤高の画家に新たな光を…日本のゴーギャン「田中一村展」

孤高の画家に新たな光を…日本のゴーギャン「田中一村展」
孤高の画家に新たな光を…日本のゴーギャン「田中一村展」
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 「日本のゴーギャン」「異端の画家」などと呼ばれ、奄美大島(鹿児島県)の自然を華やかな色彩で描いた孤高の画家、田中一村(1908~77年)。生前、作品を公開することなく、無名のまま世を去った。一村の多くの作品を収蔵する千葉市美術館で、その全作品を展示した「田中一村展」が開かれ、知られざる一面に光が当てられている。(文化部 渋沢和彦)

温かな世界

 この展覧会は、一村らしい熱帯の植物や生き物をモチーフにした大画面の鮮烈な色彩の絵はあまりなく、色紙に描いた優しく穏やかなもの小品が中心だ。親しい人にお世話になったお礼として渡していたもので、肩肘張らない、ひょうひょうとした温かな世界が広がっている。

 「黄昏野梅」は、色紙にさらりと素早く描いた。大樹の元で咲き誇る梅。その背後には黄昏時の空とともに、二人の人物が歩いている。のどかでほのぼのとしていて叙情的。千葉市の実景を描いたという。

 一村は明治41年、栃木県生まれ。千葉との関りが深く、昭和13年に千葉市に家を持ち、奄美大島に移住する前の20年を暮らしていた。野菜などを栽培しながら、田園風景や草花などを描いていた。

 千葉時代、最大の支援者だったのが一村の母方の親類の川村家だった。親しくしていた故・川村幾三がまったくの無名だった一村を、必ず世に認められると信じて精神・金銭面で支えていた。一村も信頼してなにかと相談して深い付き合いだった。川村家は購入したり、お礼としてもらったりして多数の作品を持っていた。「黄昏野梅」も川村家が所蔵していたものだった。

興味深い写真肖像画

 そんな千葉時代に関連する作品に「写真肖像画」がある。写真を元に鉛筆などで描いたもので、近所の人や知人から依頼され内職として行っていた。預かっていた写真の相談で訪ねたカメラ修理を生業としていた人物と親しくなり、焼き付けや引き伸ばしなどの技術を学び写真の知識を得ていった。やがてカメラを手に入れた一村は、身近な姉や妹のほか、旅先の風景を好んで写していた。画家らしい目でとらえた構図は絵になっている。

 写真を参考にした風景の絵(色紙)もあり、本展では写真とともに展示されていて興味深い。

 同館では平成22年に大規模な一村展を開催。それがきっかけで徐々に寄贈を受けることとなり、その後の10年間で寄託を含め100点を超えたという。なかでも30年度には、川村家からの作品や資料の寄贈・寄託を受けて美術館のコレクションも一層充実。購入予算も限りがある中で、こうした展覧会を企画したことで、さらなる貴重な作品が収蔵されるだろう。ゆかりの地での展覧会の意義を実感させる。ちなみにこの10年で購入した一村は1点だけだという。

新たな情報も

 本展は前回の展覧会に出品されていないものがほとんど。小さな作品を中心とした新収蔵品を初めて一堂にお披露目した。あまり知られていない一村の一面に光があたる貴重な展示でもある。

 同館の松尾知子上席学芸員は「前回の展覧会を開催したことで、一村の作品や情報が寄せられてきました。地元の美術館の活動に対する評価と受け止め期待に応えたい。本展はそうした資料を調査した成果として、一村の画業の未知の側面をごらんいただき、奄美の作品にいかに到達し得たかを感じとっていただければ」と話している。

 展覧会は2月28日まで。入館料などの問い合わせは同館ウェブサイトで。電話での問い合わせは043・221・2311。新型コロナウイルスの感染拡大で予定が変更される場合もあります。