勇者の物語

誰が呼んだか 勇者の窮地救う「月光仮面」 虎番疾風録番外編151

ロッテ打線を翻弄する足立。頼れる男だ=西宮球場
ロッテ打線を翻弄する足立。頼れる男だ=西宮球場

■勇者の物語(150)

7月1日のクラウン13回戦(平和台)に敗れた上田利治監督はその夜、宿舎の監督室にベテランの足立を呼んだ。

「ダチよ、頼む。あした先発してくれ」。足立は断った。

「監督、勘弁してください。調子が悪いし自信がないです」

この年の足立は故障で苦しんでいた。開幕前に右のわき腹痛を起こして出遅れ、ここまで2勝3敗。6月7日の日本ハム戦(後楽園)で敗戦投手になって以来、登板なし。左膝に違和感を感じ始めたのもこの頃からだった。

「優勝を決めるような大事な試合にはとても…」

「分かっとる、無茶なことは。けど、大事な試合やから、お前に託すんや」

「……」

山田が右手を負傷。山口は6月30日のクラウン12回戦(平和台)で170球を投げて完投したばかり。「頼む」と頭を下げる上田監督の必死な訴えに、足立は返す言葉がなかった。

〈オレしかおらんか〉。昨年の巨人との日本シリーズ、3連勝のあとまさかの3連敗で第7戦の先発を託された時も「オレしかおらんか」と心を決めてマウンドに登った。そういう役回り? 「わかりました」と足立は受けた。

決心したらもう迷わない。「久しぶりの登板やし、まずはスタミナ補給や」と早速、西宮の自宅に電話を入れ、満里子夫人に「あしたの昼飯は牛肉とレバーの野菜炒めにしてくれ」と注文した。

◇7月2日 西宮球場

ロッテ 000 000 001=1

阪 急 011 000 00×=2

【勝】足立3勝3敗 【敗】金田3敗

被安打11、足立は毎回のように走者を出した。けれど得点は許さない。九回も無死一、二塁のピンチに立った。ベンチから上田監督が飛び出してくる。もちろん、代える気はない。続く代打の山崎裕を得意のシンカーで投ゴロ併殺。その間に1点は失ったが、最後の打者村上を遊ゴロに打ち取って、前期優勝決定だ。

「5、6点もらうつもりやったのに、1点とはちょっと少なすぎたな」

阪急が窮地に立たされたとき必ずこの男が勇者を救う。誰が呼んだか、いつしかみんな足立のことを『月光仮面』と呼ぶようになった。(敬称略)

■勇者の物語(152)

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