鑑賞眼

国立劇場「四天王御江戸鏑」 コロナ禍も笑い飛ばす非日常

「四天王御江戸鏑」の羅生門河岸中根屋花咲部屋の場より。左から尾上菊之助、中村時蔵、尾上菊五郎(国立劇場提供)
「四天王御江戸鏑」の羅生門河岸中根屋花咲部屋の場より。左から尾上菊之助、中村時蔵、尾上菊五郎(国立劇場提供)

国立劇場の新春恒例、菊五郎劇団による歌舞伎公演。毎回、時事ネタを取り入れた遊び心満載の趣向で楽しませるが、今年も期待を裏切らない。コロナ禍すら笑い飛ばす、非日常がここにある。

作品は2011年、同劇場で約200年ぶりに復活上演され、好評だった通し狂言「四天王御江戸鏑(してんのうおえどのかぶらや)」。平安中期を舞台に、土蜘蛛(つちぐも)退治で知られる源頼光と、その家臣である渡辺綱ら四天王の活躍を描くが、この舞台に難しい理屈は不要。文化12(1815)年の初演も、新たな芝居一座の顔ぶれを見せる「顏見世(かおみせ)狂言」だったのだから、菊五郎劇団の今を見せ、場面ごとにいかに楽しませるかが眼目だ。

武家と町人の2つの世界が登場し、その中で役者が複数の役を演じる。おめでたい三番叟(さんばそう)で開幕し、序幕は竜宮城に見立てた「相馬御所」で、平将門の遺児、相馬太郎良門(尾上松緑=おのえ・しょうろく)が源氏復讐(ふくしゅう)の決意を語り、ダークヒーロー的なスケール感を見せる。

2幕の「羅生門河岸」では一転、鳶頭の綱五郎(尾上菊五郎)を軸に、町人の世界が展開。女郎屋での宴席では、座敷にアマビエの掛け軸がかかり、席はアクリル板で区切られ、「ソーシャルディスタンス」のせりふも飛び出す。お酌も、差し金のような道具で距離を取る徹底ぶり。さらに女郎花咲を演じる菊之助らが、昨年ヒットしたNiziU(ニジュー)の縄跳びダンスまで披露し、客席も大笑い。このサービス精神には感服する。ちなみに10年前の舞台では、巨大な土蜘蛛が登場し、土蜘蛛の精を演じる菊之助の宙乗りや、AKB48の人気曲が飛び出した。

武家と町人の世界を軽やかに行き来する、菊五郎の肩の力の抜けた芝居が絶妙だ。鳶の綱五郎が、行方知れずの渡辺源次綱とうり二つだったため、3幕「頼光館」で、身替わりになる事を了承。武家の作法をにわかレッスンでたたきこまれるも、べらんめえ口調が顏を出し、その場をぶち壊しかける。しかし源次綱の婚約者、弁の内侍(ないし=尾上右近)は好意丸出し。そこへ綱五郎と夫婦の約束をした花咲が現れ、三角関係に翻弄される様子がおかしい。妙にさばけた花咲の母、茨木婆を中村時蔵がコミカルに演じ、いい味。

松緑が3役を演じ分ける大奮闘で存在感を示し、菊之助も美しさの中に「実は土蜘蛛の精」の妖しさをのぞかせる。また坂東彦三郎の碓井貞光に華と力強さがある。10年前と比較すると、実力を蓄えた若手が主軸になっているのが頼もしい。もちろん市川団蔵らベテラン勢が、芝居を引き締める。劇団の未来は明るい。

27日まで、東京・半蔵門の国立劇場。0570・07・9900。(飯塚友子)

公演評「鑑賞眼」は毎週木曜日正午にアップします。

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