日本の未来を考える

株価の高値が不気味だ 学習院大教授・伊藤元重

大幅続伸し、2万8139円03銭となった日経平均株価の終値を示すボード=8日午後、東京都中央区
大幅続伸し、2万8139円03銭となった日経平均株価の終値を示すボード=8日午後、東京都中央区

コロナ危機による世界のGDP(国内総生産)の落ち込みは、1930年代の世界大恐慌以来である。世界大恐慌は10年以上も続いた。その背景にはFとGの問題があった。Fとは金融、Gとはグローバル化のことである。大恐慌が長期化したのは金融の混乱や保護主義の広がりが経済に悪循環を引き起こしたからだ。コロナ危機による経済的停滞が長期化しないためには、FやGでの混乱が起きないことが重要となる。その意味で金融危機が起きていないのはありがたい。株式市場は好調で、債券市場でリスクスプレッドの広がりも見られない。経済にある種の安心感を与えている。

しかし、株価は実体経済と大きく乖離(かいり)して、高値を更新している。高い株価と停滞する実体経済の大きな乖離は、コロナ危機以前から懸念されていた。実体経済に比べて高すぎる株価に懸念を示す専門家も多く、何かのきっかけで株価が暴落するリスクが指摘されていた。コロナ危機が起きたとき、これで株価の暴落が始まり、リスク度の高い債務者に対する金利が上昇すると多くの人が恐れたはずだ。実際、そうした動きがあった。しかし、中央銀行が大胆かつ迅速に動いた結果、金融市場の混乱を抑え込むことができた。これは本当に大きな成果であった。金融危機さえ起こさなければ、景気後退が長引くことはない。後はウイルスの感染をいつ抑え込むことができるかが、景気回復のタイミングを決める。ただ、感染の広がりがなかなか収まらないことが問題だが。

今後も金融の混乱は起こらないと信じてよいだろうか。ウイルス感染の広がりで実体経済の落ち込みが長期化する一方で、株価は上昇を続けている。この異様な事態は、日本銀行など主要国の中央銀行が未曽有の金融緩和を続けているからだということは分かるが、大規模な金融対応を続けていれば株価の急落もリスク債券の金利上昇も起きないと考えることはできない。日銀の存在は大きいが、市場の全てをコントロールできる神のような存在ではないからだ。株価の異様な高値が続くほど、金融市場の混乱に警戒を強める必要がある。

皮肉なことだが、経済が低調であることが金融市場にある種の安定感を与えている。金利が非常に低いので、株式市場に資金が向きやすい。日銀が市場を支えてくれているという安心感もある。金利が異様に低いので、債務が大幅に増えている企業にとっても、そして政府にとっても金利負担が軽くなっている。この状態が続く限りは、金融市場が大きく崩れることはないと言う専門家も多い。

しかし、私たちは一刻も早く景気の回復が始まることを願っている。そして景気回復が始まれば、市場金利は上昇に転じる。日本よりも米国などでそうした動きが先に出るかもしれない。それが株価などにどのような影響を及ぼすのだろうか。あまりにも低金利にどっぷりと浸(つ)かっているからこそ、景気回復に転じたときの金融市場への影響を警戒しなくてはいけない。(いとう もとしげ)