【朝晴れエッセー】震災時の受験・1月17日 - 産経ニュース

メインコンテンツ

朝晴れエッセー

震災時の受験・1月17日

 「娘の志望大学の受験科目に論文があるので指導してくれる人が必要で、あなたなら何とかしてくれると思って連絡した」という電話をかけてきたのは、阪神大震災から10日ほどたった頃、神戸の叔父の会社に勤務していたときに付き合った「当時」のガールフレンドからだった。今から26年前の出来事である。

 予備校での小論文対策の講義は、大震災で中止になり、準備はしていないという。関東圏での大学受験日は2週間後に迫っている。親としては藁(わら)にもすがる思いで、教師でもない私に相談してきた。

 そこで高校の後輩で国語の教師をしている友人に緊急事態下での対応をお願いした。「先輩了解です。何とかしましょう」と快諾を得た。

 横浜駅で落ち合い、受験生を後輩に紹介し、喫茶店で2時間ほど論文の書き方を勉強した。その集中講義が功を奏し、無事に志望校に合格した知らせを聞いたときはわが子のことのように喜んだ。

 後日談だが、後輩は、受験する大学の論文課題を数年前にさかのぼって調べ、論文の書き方と課題の予測まで指導したという。後輩は「こういう時だからこそ役に立ててよかった」と語っていた。

 6千人を超える死者を出した未曽有の阪神大震災。以前勤務していた会社の仲間も失った。つらい思いをした人は多い。

 それから4分の1世紀、その受験生の娘が今年大学受験に挑戦する話を元日に届いた年賀状で知った。時の流れの速さを実感し、忘れかけていた思い出がよみがえった。少しは役に立つことができたかと。

長井勉 72 横浜市保土ケ谷区