【漫画漫遊】「終わり」から始まる物語 「葬送のフリーレン」(山田鐘人原作、アベツカサ作画 小学館)  - 産経ニュース

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「終わり」から始まる物語 「葬送のフリーレン」(山田鐘人原作、アベツカサ作画 小学館) 

(C)山田鐘人・アベツカサ/小学館
(C)山田鐘人・アベツカサ/小学館

 「冒険の終わり」というタイトルから第1話が始まるのがいい。中世ヨーロッパ風の異世界ファンタジーといえば勇者が世界を救うのが定番だが、その点、本作は一風変わっている。勇者と仲間たちが世界を救った「その後」を描くからだ。

 物語の主人公はエルフの魔法使いフリーレン。人間である勇者ら仲間が老いて死ぬ中、彼女は一人若いままの姿で生き続ける。エルフは長寿であるため、人間とは時間感覚が根本的に異なる。執着をしないが、他者への思い入れも少ない。

 ところが、勇者の葬儀でフリーレンは意図せず涙を流す。「人間の寿命は短いってわかっていたのに、なんでもっと知ろうと思わなかったんだろう」。魔王討伐から80年。「もっと人間を知ろう」と考えた彼女は新たな旅に出る。1話ごとに数カ月、数年が経過する悠大な時間感覚は読んでいて新鮮。種族による寿命の違いは、人間とペットとの関係にも重なって映る。

 フリーレンは別の仲間が育てた少女らとパーティーを組み、以前勇者たちと踏破した道を再び歩む。旅路の描写が美しく、心にしみる。そして、かつての冒険で勇者たちが彼女に遺(のこ)していた「優しさ」に気付く。

 フリーレンが旅先で人々を助けるのは、勇者が昔そうしたから。魔法を集めるのは勇者から褒められたから。他人から見ればくだらないことが今の彼女を強く支えている。人を変えるのは結局のところ、人の思いなのだ。人の優しさや弱さをまっすぐ見つめ、寄り添い、聴く人の背中をそっと押してくれる「ザ・ブルーハーツ」の曲ではないが、人に優しくしたいと思えてくるような作品である。

 本作は普段ファンタジーを読まない人の琴線にも触れるであろう、物語の強さを持った作品だ。思い出は甘く美しい。一方、勇者がせっかく世界を救っても、80年もたてば魔物は復活するし、後世の人の都合で歴史は美化される。人間のどうしようもなさといとおしさが描かれているのだ。

 物語全体を包むのは「メメント・モリ(死を想(おも)え)」の精神。コロナ禍の再拡大で心が擦り減りそうになる今、読み進むうちに感じる本作独特の静けさが心地よい。既刊3巻。(本間英士)