朝晴れエッセー

黄色い人を追いかけて・1月15日

先月、久しぶりに「本気で走っている人」を見た。

いつも通り、職場近くの駅で降りた。郊外の駅前、この時間の人通りはまばらだ。

鮮やかな黄色い上着の若い男性とすれ違った。すると向こうから、大声で何やら叫びながら走ってくる中年の女性がいる。「ひったくり?」と緊張が走った。

女性は巾着袋のような物を手に掲げて「待って!」と何度も叫んでいる。家族が忘れ物を? いや、それも違った。

女性は「落としましたよ!」と叫んでいた。さっきの男性の落とし物を拾って追ってきたのだ。男性は気づかず改札に向かっている。イヤホンで耳を塞いでいたのかもしれない。

女性は私のすぐ横で力尽き、膝に手をついた。息を乱しながら数十メートル先の黄色い上着をにらみつけ、「どうして聞こえてくれないのよ!」と声に出した。近くには交番がある。駅員に預けたっていい。私は心の中で「お疲れさま」とつぶやいた。

その時、女性は「ふん!」と力強く鼻息を吐き気合を入れると、改札に向かってもう一度駆け出した。そして走りながらこう叫んだ。

「そこの! 黄色い人!」

結果は見届けてはいない。結局、駅員に預けたかもしれない。

ただ、私は思った。自分なら、赤の他人のために全力で走れるだろうか。電車では席を譲るし、落とし物を拾ってあげた経験もある。しかし、他人のために喉が裂けるほど叫べるだろうか。

私にはまねできない善良な人がこの町にいると知って、いつもとは少し違う朝になった。

岩名進 53 兵庫県川西市