香港、61万人の声を無視 恐怖統治で押さえ込み 予備選めぐり摘発

香港立法会(議会)選挙に向け、民主派が実施した予備選の際、撮影に応じる民主派のメンバーら=2020年7月、香港(ロイター=共同)
香港立法会(議会)選挙に向け、民主派が実施した予備選の際、撮影に応じる民主派のメンバーら=2020年7月、香港(ロイター=共同)

香港の警察当局がついに香港国家安全維持法(国安法)を武器に、民主派の本格的な摘発に乗り出した。昨年7月の民主派・予備選に投票した61万人の声は完全に無視された形だ。国安法施行下の恐怖統治によって抗議活動を押さえ込み、デモ再燃の可能性はないと判断した結果とみられる。

昨年7月11、12両日に一般有権者を対象に実施された民主派の予備選は、香港の住民にとって、同年6月30日の国安法施行後最初の投票機会だった。

「この予備選は香港で最後の自由な選挙になるかもしれません」。民主活動家の周庭(アグネス・チョウ)氏(24)は出馬しなかったものの当時、投票を懸命に呼び掛けていた。

一方の政府は、予備選に対し国安法違反の疑いがあると繰り返し警告。しかし投票者は61万人(登録有権者の13%)を超えた。いわば、予備選への投票は国安法にNOを突きつける「61万人の抗議デモ」だった。

政府は選挙翌日の7月13日、予備選に関する調査を開始したと発表したが、今回の一斉摘発は半年近くたってから。逮捕令状は昨年12月に発行されていたとの情報もあり、慎重にXデ-を探っていたようだ。

香港当局は予備選後、周氏や黎智英(れい・ちえい)=ジミー・ライ=氏(72)ら民主活動家を次から次へと逮捕し、民主派の立法会議員らの資格も剥奪。社会は萎縮し自主規制が進んだ。

昨年1月1日には主催者発表で100万人以上が反政府デモに参加したが、今年の元日は新型コロナウイルスの影響もあって不発。当局は、2019年から続いた抗議活動を完全に押さえ込んだと判断した上で今回、一斉逮捕に踏み切ったとみられる。

予備選の準備・運営に当たった民主派の区諾軒(おう・だくけん)・元立法会議員が今年に入り、滞在先の日本から香港に戻ったが、そのタイミングで逮捕を強行した可能性もある。米大統領に今月20日、人権問題に厳しいバイデン前副大統領が就任する前の一斉逮捕を狙ったとも、香港メディアは報じている。

一方、民主派の勢力が弱体化すると、今度は親中派の間から、防疫策などをめぐり林鄭月娥(りんてい・げつが)行政長官を批判する声が上がり始めた。行政長官選を来年に控え、親中派陣営で中国政府へのアピール競争が始まったとの見方が浮上。林鄭氏としても強気の対応をとらなければ、足をすくわれかねない状況になりつつある。(藤本欣也)