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夢を駆ける 山下千絵 パラ陸上短距離

漆間宣幸撮影、SMBC日興証券提供
漆間宣幸撮影、SMBC日興証券提供

 東京五輪・パラリンピックの1年延期が選手に及ぼす影響は計り知れない。予想もしなかった事態に翻弄されながらも、パラ陸上女子短距離の山下千絵(23)=SMBC日興証券=は「プラスの要素しかない」と前を向く。競技歴はわずか3年。「私の技術はまだまだ発展途上。(大会まで)成長できる時間を与えてもらっている」と受け止めるからだ。

 身長170センチの体格を生かし、日本パラ陸上選手権200メートルでは初出場した2018年大会から3連覇中で、3月の日本パラ陸上では100、200メートルともに自己記録を1秒以上縮めるつもりだ。「東京」を視野に入れての覚悟でもある。

 両親の影響で5歳からテニスに打ち込んだスポーツ好きの少女が、横断歩道を歩行中に交通事故に遭ったのは小学4年生のときだった。左足の膝から下を失う大けがで、入院は半年間にも及んだ。退院後、通っていた小学校では義足になったことを卒業するまで隠し通した。「いじめられるかも…」と怖かったのだ。そんな思いを払拭し、中学の時にテニスを再開できたのは、理学療法士の先生が「義足でもあきらめる必要はない」と背中を押してくれたからだった。

 支えられた経験もあって障害者スポーツの発展に携わりたいと進学した大学で、00年シドニー大会から走り高跳びで5大会連続出場している義足のジャンパー、鈴木徹氏の特別講義を受けた。競技用の義足を見たのもこの時が初めてだったが、トップアスリートとして自らや記録と向き合う姿に感動を覚え、「やってみたい」と心が動いた。

 最初は競技用義足で立つことすらできず、何度も転んだ。悔しくて、でも楽しくて時間を忘れて練習に励んだ。大学3年になった18年春、初めてレースに出場し、「やるなら一番になりたい」。アスリートとしての一歩を踏み出した。

 昨年は新型コロナウイルスの影響でトレーニング施設や競技場が使えず、近くの公園や川沿いを走ることが多かった。そんなある日のこと。好奇の目で見られることには慣れている。だが、5歳くらいの男の子からかけられた言葉は「かっこいいね」。理想とするパラアスリート像に近づいた気がしてうれしかった。

 小学校時代、長ズボンをはいて隠していた義足は今、夢を駆ける「私のチャームポイント」だ。目指すは東京大会での「決勝進出」と24年パリ大会での「表彰台」。自らの活躍で「義足が身近に、誰にとっても普通の存在になるように」と思い描いている。(西沢綾里)

山下千絵

 やました・ちえ 1997年7月13日生まれ、神奈川県出身。小学4年生の時の交通事故で左膝から下を切断。法政大に入学後に陸上を始め、急成長。東京パラリンピック出場を狙う。

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