朝晴れエッセー

父の文字・1月4日

「字は体(たい)を表す」

色あせた父の年賀状の文字は躍動し、そしてまるで春の野原で思いっきり、手足を伸ばしているかのようにも見える。

父の書く文字はいつも決まってそんなふうだった。役所に出す書類の文字も学校への提出書類も孫の命名の文字も。

ちょっとそれが不思議でもあった。

そして、亡くなる半年ほど前、病院の長い長い待ち時間に何を思ったのか、父は不意にシベリア抑留時代の話を始めた。

文字が上手だった父は事務方に回され、厳冬の最中森林伐採に行かずに済んだこと、そして森林伐採がどれほど過酷な作業だったかも。行きの点呼と帰りの点呼とで人数が違っていたこと。

そして、その戻れなかった人たちの墓標を一体、何人分書いたことかと。シベリアのどこかの荒野には、父の文字の墓標がたくさんあるはずだと。

初めて聞く話だった…。

抑留から2年たって、父はシベリアから帰ってきた。

生きて帰ってきたこと、再び故郷の土の上に立てたこと、父の書く文字に表れているのは、きっとそのときの喜びなのだと私は思う。

三村啓子(71) 千葉県松戸市