代替肉の需要増に畜産業界が危機感、敵対する自然派食品の支持者たちと手を組んだ理由

「放牧のほうがエコ」という主張の真偽

フードムーブメントを支持する進歩主義者のなかには、こうした利点を認めない人もいる。注意深いやり方で牛を放牧すれば、土壌中に封じ込められる温室効果ガスの量はげっぷで排出される量よりも実際には多くなり、気候変動を抑えることができるというのがその理由だ。こうした考えを支持する人は、「環境再生型農業」の一環となる「ホリスティックな放牧(holistic grazing)」と呼ばれる手法を推進している。

この主張の立証は難しいが、誤りだと立証することもまた容易ではない。広範囲の草地の土壌に含まれる炭素含有量の変化を確実に測定することは困難だからだ。科学者は、さまざまな場所のさまざまな深さから、ありとあらゆる種類の土壌をサンプルとして集めて比較しなければならない。

しかも、1年全体を通じた比較を何年にもわたって続ける必要がある。炭素が封じ込められるプロセスは、土壌が炭素で飽和してしまえばスピードが落ちるし、その後に耕されると完全に逆転してしまう。

牛の放牧によって気候変動が抑制できることを示す有力な科学的証拠はほとんどない。しかし、畜産業界はそれでもなお、植物由来代替肉に抵抗して本物の肉を弁護するひとつの手段として、この主張を繰り返すようになっている。

20年1月には、テキサスおよび南西部養牛者協会(TSCRA)が、「牛が放牧されている牧草地は年間を通じて、家畜牛や自動車などあらゆるものが排出する温室効果ガスを吸収した」と主張している。

というわけで、家畜の擁護派は再びフードムーブメント側の主張を盾に、本物の肉を弁護し、植物由来の代替肉に反対する姿勢を示している。

「バプテストと密売業者」に学べること

フードムーブメントを率いるリーダーたちは、新型コロナウイルス感染症のパンデミックが起きているいまは特に、代替肉の加工問題を必要以上に重視するやり方を見直すべきだろう。そして以前のように、病原体や食肉パッケージ工場の労働環境、温室効果ガスの排出、土地や水、抗生物質の使用、動植物の生息地保護、動物の苦しみに重点を置いた取り組みを復活させるべきだ。たったひとつの信念を前面に押し出し、ほかの懸念材料を脇に押しやってしまえば、敵にチャンスを与えることになる。

そんななかで経済学者たちが危惧しているのが、「バプテストと密売業者」現象だ。これは約100年前の米国で成立した急進的な禁酒法が招いた状況に由来している。

当時、南部バプテスト連盟を中心とした禁酒党は、道徳的な運動として憲法を改正し、アルコールの販売を禁止しようとした。1920年に修正第18条が批准されると、南部バプテスト連盟はこれを「米国独立宣言以来で米国の倫理改革における最大の勝利」と呼んだ。

とはいえ、倫理的な勝利はつかの間の幻想だった。合法的な酒類販売が禁止された結果、密売業者による違法販売へと取って代わられたのだ。やがて、マフィアが暴力を用いて酒類の違法製造と販売を支配するようになり、それによって得た利益で警察を買収。都市は抗争の場へと一転した。バプテストの道徳的信念に基づいた姿勢は、無節操な密輸業者を助長してしまったのである。

植物由来の代替肉を巡る現在の争いでは、あまりにも多くのフードムーブメントのリーダーたちが、かつてのバプテストのようにふるまっていると言えるだろう。

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