代替肉の需要増に畜産業界が危機感、敵対する自然派食品の支持者たちと手を組んだ理由

McNAIR EVANS/REDUX/AFLO
McNAIR EVANS/REDUX/AFLO

 植物由来のフェイクミートの需要が、コロナ禍を経て全米で急増している。こうした動きに危機感を抱いた畜産業界が味方として頼ったのは、自然派の食品を支持して加工食品や添加物に反対する「フードムーブメント」の支持者たちだ。しかし、パンデミックとの闘いのさなかである現在、この共闘は見直されるべきではないか。

TEXT BY ROBERT PAARLBERG

TRANSLATION BY YASUKO BURGESS/GALILEO

WIRED(US)

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)のパンデミック(世界的大流行)の意外な影響のひとつは、米国における代替肉の消費者需要が急増したことだった。調査会社ニールセンのレポートによると、米国の食料品店における代替肉の売り上げは、2020年5月2日までの9週間で264%にも達したという。その背景には、食肉加工場で感染者が出たことへの不安や、畜産のプロセスで感染が拡大するのではないかという危惧、さらには新型コロナウイルスそのものが動物由来であることへの恐怖心などがある。

しかし、代替肉のなかでも植物由来のものが新たなブームの中心になったことは、さらなる驚きだった。というのも、このブームはエシカルで健康的なリアルフードを目標に掲げ、加工食品や添加物に反対する先鋭的な活動「フードムーブメント」を率いるリーダーたちに支持されていないからだ。

新型コロナウイルスが発生するずっと前から、こうしたフードムーブメントの人々は代替肉に対して強硬な姿勢を見せてきた。その理由や背景については詳しく見る価値があるだろう。

共通の敵を見つけた畜産業界とフードムーブメント

イノベイションは常に人々に新しい選択肢を強い、ときには政治的な状況が組み直されることすらある。互いに同等の利益が得られれば、かつての敵と結託することもありうるだろう。

そして、植物由来の代替肉に反対する立場をとるフードムーブメントは現在、畜産業界と手を結んでいる。畜産業界は本物の肉を生産している張本人であり、フードムーブメントにとっては長年の敵だ。このような結託は、とりわけ新型コロナウイルスの時代において、賢い選択だと言えるのだろうか。

フードムーブメントを叫ぶ進歩主義者たちはかねてから、畜産業に対して最も手厳しい批判を繰り広げてきた。その主たる理由は、畜産業の基盤となっている集中家畜飼養施設(CAFO)、通称「工場式農場」である。

そうした施設は生産性が非常に高いが、そのために動物の福祉が犠牲にされがちだ。また、抗生物質の過剰使用により、わたしたち人間を健康上のリスクにも晒す。工場式農場は赤身肉や加工肉も供給しているが、そうした肉類が過度に消費されている米国では、2型糖尿病や心疾患、一部のがんの発生率が上昇しているのだ。

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