コロナ禍で曲がり角に立つミュージアム 創造の源泉にも - 産経ニュース

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コロナ禍で曲がり角に立つミュージアム 創造の源泉にも

コロナ禍で曲がり角に立つミュージアム 創造の源泉にも
コロナ禍で曲がり角に立つミュージアム 創造の源泉にも
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 世界の様相を一変させた新型コロナウイルス禍は、美術界をも直撃した。中でも集客施設である美術館・博物館は大幅な運営の見直しを迫られ、曲がり角に来ている。美術館のあり方、観客との関係性に、大きな変化を予感させる一年だった。

 昨年2月末、感染拡大防止のため国立博物館4館が臨時休館して以降、全国の大半の館が門戸を閉じた。各館は急遽(きゅうきょ)、展覧会計画を組み直し、再開後も感染予防対策に追われた。

 来館者の定数管理、個人情報の把握のため大都市圏の館を中心に採用されたのが、オンラインによる事前予約制だ。思い立ってふらっと美術館に行く-そんな行動パターンは難しくなりつつある。

 「試行錯誤の一年でした」と語るのは、いち早く導入した東京国立博物館(東博)の竹之内勝典総務課長。ネット環境がない人、不慣れな人などには電話や窓口で極力対応してきたという。

 インバウンドや中高年層が多い東博の来場者は、コロナ禍で激減。近年、年間約100万人を集客してきた総合文化展(常設展)も、今年度は12~13万人の見込みという。年初には「高御座(たかみくら)」の特別公開で2万人が訪れる日もあったが、特別展のない12月は400人ほどで寂しい日も。

 事前予約制については来年度以降、混雑が予測される日に限定するなど、さまざまな可能性を検討する。「行列で待つこともなく、快適な鑑賞環境であることへの来館者の評価は高い。コロナ禍で急な対応を迫られましたが、今後へノウハウを蓄積することができた」と竹之内課長は話す。

自らの「資源」見直す

 海外の名品を集めた大規模展も難しくなりそうだ。疫病という不確定要素が大きいが、そもそも近年、保険料や輸送費など展覧会のコストが高騰。採算上、数十万規模の動員が必要になるが、密も避けなければならない。「入場料を高く設定するしか…」(企画関係者)というジレンマにある。

 一方、各地の美術館で高まっているのは、自らの資源であるコレクションを見直し、活用する機運だ。横浜、富山、愛知の公立3館の収蔵品で構成した「トライアローグ」展は、各館のピカソ作品から画風の変遷をたどれたりと、海外の有名コレクションに劣らぬ充実ぶり。東京・目黒区美術館の「LIFE」展は、私たちの最大の関心事である「命」「暮らし」の表現を、収蔵品の中から丁寧に抽出した企画だった。「絶望のただ中で、ほんの少し希望がみえた」「芸術の大切さがわかった」などと、館内に掲示された来館者メッセージの熱さが印象的だった。

511館がオンライン発信

 全国の博物館・美術館が加盟する日本博物館協会の緊急アンケート(回答709館)によると、臨時休館中に511館がウェブサイトやSNSによる情報発信を実施したという。学芸員による解説動画や展示室のVR映像の配信など、多種多彩なオンライン・コンテンツは美術教育に役立つとともに、新たな収益源の可能性も感じさせた。

 とはいえ美術館の実空間に身を置き、本物を目にするありがたみをこれほど切実に感じた年はない。「ピーター・ドイグ」(東京国立近代美術館)や「神田日勝 大地への筆触」(東京ステーションギャラリー)では豊かな絵画世界に浸り、「鴻池朋子 ちゅうがえり」(アーティゾン美術館)では生の手触りにゾクゾクした。五感を刺激する「廣瀬智央 地球はレモンのように青い」(アーツ前橋)も、ステイホームで縮こまっていた心身を開放してくれた。

コロナ禍を奇貨として

 ウィズ・コロナ時代の美術についてはまだ、よく見えてこない。ただ横尾忠則さんは、さまざまなビジュアルにマスクや口のイメージを重ねた作品シリーズ「WITH CORONA」をほぼ毎日、ツイッターで発表。「コロナ禍は芸術にとっては創造の源泉」と断言し、絵筆をとり続ける美術家の姿は頼もしい。

 また、気候変動に警鐘を鳴らしてきたオラファー・エリアソンの個展「ときに川は橋となる」(東京都現代美術館)は、美しいインスタレーションを通して地球環境への働きかけを私たちに促した。それはコロナ禍を乗り越える上でも示唆に富んでいた。

 「ダリコ」のパフォーマンスで知られる秋山祐徳太子さん、戦争画研究でも功績を残した菊畑茂久馬さん、ルポルタージュ絵画の池田龍雄さん、もの派の原口典之さん。戦後の前衛美術の牽引(けんいん)者たちが亡くなった。

(文化部 黒沢綾子)