鑑賞眼

「オリエント急行殺人事件」職業倫理に悩めるポアロ

「灰色の脳細胞…」のセリフで有名な名探偵エルキュール・ポアロ(椎名桔平)
「灰色の脳細胞…」のセリフで有名な名探偵エルキュール・ポアロ(椎名桔平)

 高身長のエルキュール・ポアロがいてもいい。

 1934年の冬、名探偵ポアロが乗車したオリエント急行には、国籍も身分も年齢も異なる人々が乗り合わせていた。トルコからフランスへの旅の2日目、列車は雪だまりに衝突して停止。そして乗客の1人の他殺死体が発見される…。

 アガサ・クリスティーの同名小説の舞台化。演出は河原雅彦。あまりにも有名な作品なので、観客のほとんどが犯人を知っていたはずだ。平成29年に公開された同名ハリウッド映画の記憶も新しい。

 クローズド・サークルもので結末が明らかな状況というのは、河原本人がコメントしている通り、「見せものとしては相当なハンデ」だ。観客を飽きさせず、物語に引きずり込むために意外性が必要となる。

 その意外性の鍵となったのが、今作のポアロである椎名桔平。原作では小男のポアロが、エルキュール(ヘラクレス)の名前にふさわしく、舞台上の誰よりも身長が高く、スマート。演出とかみ合い、新しいポアロ像が表現されていた。

 原作のあらすじと大きく違う点は「関係者の人数が少ない」「ポアロが職業倫理に葛藤する」だろうか。殺人事件を、12人の陪審員が人を裁く陪審制ではなく、神が人を裁くキリスト教における7つの大罪になぞらえた。人は神になれないからこそ、真実=正義なのだろうかと、職業倫理とのはざまでポアロの悩みも深くなる。

 真犯人隠匿の後押しをすることに戸惑うポアロは、原作通りのキャラクターであれば奇妙に映ったかもしれない。しかし、椎名が演じることで悩める哲学者の横顔を得た。松尾諭演じる鉄道会社の重役ブークとの軽快な掛け合いも見どころ。

 12月8日から27日まで。東京都渋谷区のBunkamura シアターコクーン。(三宅令)

 公演評「鑑賞眼」は毎週木曜日正午にアップします。