鑑賞眼

芸術祭W受賞の藤本昭子「地歌のいろは」上方と九州系の競演

九州系地歌の藤本昭子(左)と、上方地歌の菊央雄司が、それぞれ「黒髪」を全曲演奏した
九州系地歌の藤本昭子(左)と、上方地歌の菊央雄司が、それぞれ「黒髪」を全曲演奏した

 12月25日に発表された令和2年度(第75回)文化庁芸術祭で、音楽部門とレコード部門の大賞をダブル受賞した九州系地歌箏曲の演奏家、藤本昭子。力強い美声と繊細な節回しとをあわせ持ち、邦楽ファンの間では知られた存在だが、前例のない2部門同時受賞で今回、一般にもその名が喧伝された。

 その藤本が快挙の直前に催したのがこの「地歌のいろは」。江戸期に上方(関西)で発祥し、三弦(さんげん=地歌の三味線)を弾きながら歌う地歌の、普及への思いがこもった公演である。今回は上方地歌と、そこから展開した九州系地歌とを聴き比べるという、ありそうでなかった企画。演奏家も第一人者が揃い、聴きごたえがあった。

 冒頭は端歌「黒髪」を、九州系地歌の藤本と、上方地歌の若手実力者、菊央(きくおう)雄司がそれぞれ全曲演奏。独り寝にかつての恋人を思う寂しさを、藤本は艶のある太い声に哀感を漂わせ、菊央が洗練された技巧で聴かせる。藤本の三弦は、九州系地歌を全国に広めた長谷幸輝検校(ながたに・ゆきてるけんぎょう=1842~1920年)愛用の楽器で、2年前、熊本市内で発見されたものを修復し、1年かけて弾き込んだもの。義太夫の三味線を参考に、三弦の改良に取り組んだ長谷検校らしく、通常の三弦より大きく、音も力強い。

 続く名曲「雪」では、藤本と菊央が一節ずつ、細かく交互に歌い分け、最後は合唱。本来、上方と九州で手(演奏)が違うところを、ジャズセッションのように呼応し合う。菊央の転がるような高音の節回しと、藤本のよく響く低音が、緊張感の中にも心地よい。

 さらに菊央が、大坂の年中行事や風俗を軽妙に歌う「浪花十二月」が楽しく、地歌の次代を背負うホープへの期待もにじむ。そして藤本と尾葉石輝美(おばいし・てるみ)が、それぞれ長谷検校ゆかりの三弦で「難波獅子」を披露し、終曲はご祝儀物「松竹梅」。