勇者の物語

狂った歯車 審判への不信感 虎番疾風録番外編140

「ボール」の判定にマウンドから駆け寄る山田(捕手は中沢、左は王)=西宮球場
「ボール」の判定にマウンドから駆け寄る山田(捕手は中沢、左は王)=西宮球場

■勇者の物語(139)

シリーズ前、上田利治監督は「4勝2敗で勝つ」と計画した。後楽園で1勝1敗。西宮で2勝1敗。もう一度、後楽園へ行って巨人の息の根を止める-。

それが思わぬ3連勝で〝地元胴上げ〟のチャンスが生まれた。10年間も夢見てきた打倒巨人の喜びを、ファンとともに…。小さな思いが勝負の歯車を狂わせる。第5戦、エース山田が先発のマウンドに上がった。

◇第5戦 10月30日 西宮球場

巨人 000 400 100=5

阪急 000 100 020=3

【勝】ライト1勝1敗 【敗】山田1勝1敗

【S】小林1勝1敗1S

【本】ライト①(山田)

四回、山田は先頭の王を2-1と追い込んだ。4球目、抜いたスライダーを投げた。タイミングを狂わされた王は見逃し。みな「三振」と思った。ところが球審の判定は「ボール」。

えっ、そんなぁ…と捕手中沢が天を仰ぐ。マウンドから山田が詰め寄った。「どこがボールなんだ! 低い? あれのどこが低い」。もちろん判定は変わらない。山田のリズムはこの1球で狂った。

王を四球で歩かせ続く柳田にも四球。高田の投前バントで1死二、三塁にされ、吉田に右前へ2点タイムリー。さらに投手のライトに2-0と追い込みながら、甘いカーブを左翼スタンドへ叩き込まれてしまう。まさかの4失点降板。

「やられた。審判に! 文句のないストライクだ」

エースがたった1球のボールの判定でここまで崩れるとは…。実はこれは長年の積もり積もった不信感の表れだった。

当時、球界では「日本シリーズで審判は所属リーグへの判定が甘い」と言われていた。もちろん、審判たちは公平にジャッジしている。ただ、セ、パによってストライクゾーンに若干の差があり、それが〝えこひいき〟だと思われていた。この第5戦の球審はセ・リーグの審判。山田には試合前から「やられる…」の思いがあった。

「地元ファンには申し訳なかったが、最後までやれ-という神様のおぼしめし。花のお江戸でベストを尽くします」と上田監督は気を引き締め直した。

阪急連敗で3勝2敗。舞台は再び東京へ移った。(敬称略)

■勇者の物語(141)

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