令和2年 私の3冊(1/6ページ) - 産経ニュース

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令和2年 私の3冊

令和2年 私の3冊
令和2年 私の3冊
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 年末恒例、今年の「私の3冊」です。新型コロナウイルスに悩まされ続けた令和2年に刊行されたあまたある本の中から、各ジャンルの専門家たちが「これぞ」と思う良書をチョイスしました。年末年始休暇、ステイホームの読書にお役立てください。

 ≪文芸≫

 □書評家・石井千湖

〔1〕るん(笑) 酉島伝法著(集英社・1800円+税)

 現実と少し異なるもうひとつの日本を舞台にした連作小説集。作中で人々は絆を重視し、病気などネガティブな言葉はポジティブに言い換え、科学的根拠のある医療より民間療法を信じている。熱を出した人には薬ではなく免疫力を高める「水」、末期がん患者には緩和ケアではなく善意の「千羽鶴」が与えられるのだ。ユーモラスな文体で描かれるだけに、よりいっそう恐ろしい。読んでいるうちに人間がいかに自分に都合の悪いことを無視して見たいものしか見ないかということを思い知らされる。

〔2〕ピエタとトランジ<完全版〉

          藤野可織著、松本次郎イラスト(講談社・1650円+税)

 どんな謎でもあっという間に解くが、殺人事件を呼ぶ特異体質で周囲の人がバタバタ死ぬ。そんな危険な名探偵トランジと、彼女の活躍を記録する親友ピエタの物語。女に生まれただけでふりかかる災難や押し付けられる理不尽を、絶妙なコンビネーションで粉砕していく2人が痛快だ。最後のセリフにもしびれた。

〔3〕持続可能な魂の利用 松田青子著(中央公論新社・1500円+税)

 本書を読んだときのうれしさは忘れがたい。こんな小説を待っていた。「おじさん」の視界から少女が消えるまでの経緯を描く。鍵になるのは、セクハラを受けて失業した30代女性と、笑わない女性アイドルの出会い。今の社会に息苦しさを感じているすべての人に薦めたい。フェミニズム文学としてはもちろん、日本アイドル文化論としても素晴らしい一冊。