共産党政権下のネパールで王制の復活を求めるデモが起きている。王制は2008年に崩壊したが、常態化する政界の混乱などを受け、王制による安定を求める動きだ。退位したギャネンドラ前国王(73)への不信感もあり、王政復古を願う声がどこまで拡大するか未知数だが、地域の大国であるインドと中国が事態を注視している。
(シンガポール 森浩)
王制廃止も「国は危機に瀕(ひん)している」
「国を救うため王制の復活が必要だ」
デモは11月上旬から首都カトマンズなどで相次いでおり、抗議の声は首都カトマンズから地方に拡大する兆しを見せている。これまでも王政復古を求めるデモは散発的に起きていたが、今回は広がりを見せている形だ。
参加者が要求するのは、現在のネパール共産党政権に代わる王室の復活だ。「国は危機に瀕している。(現在の)指導者たちは国を略奪している」。デモ指導者の1人は地元メディアに語気を強めた。
ネパールは王制下で長らくヒンズー教を国教としてきたが、07年公布の暫定憲法で、特定の宗教によらない「世俗国家」と定めた。デモの背景には、ネパールを「ヒンズー教国」として復活させたい一部信者の思惑もある。
共和制移行で「泥沼の政争」
ネパールでは08年5月、制憲議会で共和制導入が議決され、約240年に及んだシャー王朝が幕を閉じた。ギャネンドラ氏は退位し、私人となった。タバコ製造メーカーなど国内大企業の株式を保有し、資産家として生活する。
王制は廃止されたものの、その後に繰り広げられたのは、政党間での主導権争いだった。17年の下院選では、統一共産党(UML)とネパール共産党毛沢東主義派(毛派)による左派連合が勝利して政権を獲得。両党はネパール共産党として合流し、政局は安定するかとも思われた。
だが結局、穏健派のUMLと、内戦期(1996~2006年)に武装闘争路線を掲げた毛派はそりが合わず、対立は継続した。今年秋以降、オリ首相への不信任案が与党内から提出される見通しとなり、オリ氏は選挙での状況打開を模索。12月20日に下院は解散され、来年4月30日と5月10日に総選挙が実施されることが決まった。