鑑賞眼

劇団民芸「ある八重子物語」 新派と新劇の両立、生き生きと

左から藤巻るも、中地美佐子、横島亘、有森也実、篠田三郎(谷古宇正彦撮影)
左から藤巻るも、中地美佐子、横島亘、有森也実、篠田三郎(谷古宇正彦撮影)

 今年創立70周年を迎えた新劇の老舗「劇団民芸」。節目の年、縁の深いチェーホフ関連作の上演などを企画していたものの、コロナ禍で中止・延期せざるを得ず、厳しかった1年を今、劇団初となる井上ひさしの喜劇で、軽やかに締めくくっている。丹野郁弓演出。

 本作は井上が1991年、初世水谷八重子(1905~79年)の十三回忌追善公演に新派に書き下ろした作品だ。この作家らしく、「婦(おんな)系図」「日本橋」など新派の名作の台詞や登場人物をふんだんに盛り込む。劇中、八重子本人は出てこず、東京・柳橋の医院を舞台に、八重子に心酔する院長(篠田三郎)以下、従業員も新派マニアという設定で、来訪する患者や芸者衆との会話から、八重子論や女形芸への論考が展開する。

 約30年前の初演は、井上の執筆の遅れで開幕が1週間延びたことでも注目を集め、当代八重子(当時は良重)や女形の二世英太郎(1935~2016年)ら新派俳優と、歌舞伎の十八世中村勘三郎(当時は勘九郎、1955~2012年)が、達者な地芸でぶつかり合う緊張感と面白さがあった。いわば本業がパロディーを演じたわけだが、今回は作品が古典化する中、新派ではなく新劇での上演だからこそ、新派や女形芸への敬意を持った上で、それらを外から徹底的に笑いに転化している。

 登場人物はみな戦中戦後の窮屈な暮らしで、大好きな新派の台詞を諳んじ、まねをすることで日々の憂さを晴らす。生活の中に泉鏡花らの作品が生き、庶民が「新派ごっこ」をする喜びを、丹野がテンポのよい演出で運ぶ。置屋の女将役の日色ともゑらベテランから若手まで、劇団らしい統一感が生活感を醸し出し、物語のキーマンとなる女形研究の学生役の塩田泰久、新派女形役のみやざこ夏穂とも、女形の演技でも大奮闘。また医院の従業員3人(横島亘、中地美佐子、藤巻るも)の絶妙なコンビネーション、篠田の落ち着き、八重子を投影した芸者役の有森也実ほか桜井明美、吉田陽子も、たくましく粋な空気を漂わす。

 新派や女形芸をそれらしく見せなければならない、難易度の高い作品だが、この劇団ならではの俳優層の厚みと、統一感のある舞台は、井上作品との相性もいい。井上は今作初演時、パンフレットに「新派と新劇とを両立させようとして戦いました」と記した。今回の民芸とこまつ座との共同制作で、目的が達成されたのではないか。今後の井上作品上演も期待したい。27日まで、池袋の東京芸術劇場シアターイースト。044・987・7711。(飯塚友子)

 公演評「鑑賞眼」は毎週木曜日正午にアップします。