菅義偉政権が看板政策のひとつとして掲げる社会のデジタル化をめぐり、数多くの課題が浮かび上がっている。政府は司令塔の役割を担うデジタル庁の基本方針を決定し、出遅れの解消を狙っているが、新たな社会の仕組みにすべての国民が順応したり、通信の安全性を確保したりすることは容易ではない。また、政府がデジタル化を主導するだけの人材を確保できるかにも不安はつきまとう。デジタル化の遅れを挽回して国力低下を回避できるかどうかは、菅政権の主導力にかかっている。
「歩みを止めることなく、デジタル改革を強力に進めたい」。平井卓也デジタル改革担当相は21日、デジタル庁の基本方針決定後の会見で語った。
しかし、日本のデジタル化の遅れは深刻だ。63カ国・地域中で27位-。スイスの国際経営開発研究所が発表した2020年の世界のデジタル競争力順位では日本は4つ順位を落とし、出遅れがあらわになった。
菅首相は21日の関係閣僚会議でデジタル化が実現した社会について、役所に行かなくても手続きができたり、地方にいながら都会と同じ生活や仕事ができたりすると説明した。
この際に重要なのは基本方針で示された「誰一人取り残さないデジタル化」の理念だ。高齢化社会の先頭を走る日本ではスマートフォンなどを使ったことがない高齢者らへの配慮が欠かせない。新たな格差をつくらないためにも「不慣れな人をサポートする具体策が求められる」と日本総合研究所の野村敦子主任研究員は指摘する。
同様にセキュリティーに対する不安解消も必須となる。マイナンバーカードはオンライン上で本人確認ができるICチップが付いているが、カードを通じ情報が漏れるのではないかとの不安もあり、普及率は2割にとどまる。利活用される個人情報などのデータが増えれば、システムの脆(ぜい)弱(じゃく)性を突いた不正アクセスなどの問題の深刻度は増す。
こうした課題に取り組む上でカギを握るのが人材育成だろう。経済産業省では2030(令和12)年に国内のIT人材の不足が最大79万人に達すると推計する。民間企業ではNTTデータがIT能力の高い人材を年収3千万円以上で雇う制度を導入するなど、争奪戦の様相を呈してきた。
IT人材の不足は500人規模での発足を目指すデジタル庁にとってもハードルとなる。兼業やリモートワークを柔軟に認め、優秀な人材を確保したい考えだが、年収の目安は700万~千数百万円程度と民間に見劣りし、必要な人材を確保できるかは見通せない。人材底上げには「米国のように有能な人が官民を行き来できる仕組みが必要になる」(野村氏)。
世界的なデジタル化の流れの中で日本が後れを取り戻せなければ、国力の低下にもつながりかねない。政府のデジタル化政策の司令塔となるデジタル庁には積み重なる課題をクリアしたうえで、省庁や自治体の垣根を越えたシステムの大改革などの実行力が問われる。(万福博之)