「赤ヘル」広島を破り、球団史上初の日本一に輝いた上田阪急は、V1記念にスパイクを真っ赤に統一。昭和51年シーズンを「赤スパ」で迎えた。
上田利治監督は「日本一を変に意識すれば〝守ろう〟という気持ちが邪魔をして発展がなくなる。一からスタートして先頭でゴールする-という気持ちが大事だ」と気合を入れた。
悲願の日本一を達成しても、球界の上田監督に対する評価は厳しい。「あれは西本監督の遺産」と言われてはより気合が入ろうというもの。
近鉄との開幕戦。先発オーダーは①福本(中)②正垣(左)③高井(一)④長池(指)⑤マルカーノ(二)⑥森本(三)⑦ウイリアムス(右)⑧中沢(捕)⑨大橋(遊)そして開幕投手は山田。
◇開幕戦 4月3日 西宮球場
近鉄 000 000 000=0
阪急 380 000 00×=11
【勝】山田1勝 【敗】神部1敗
【本】マルカーノ①(神部)高井①(太田幸)
「赤スパ」軍団は二回に大爆発した。先頭のウイリアムスが左超えに二塁打(三塁を狙ってアウト)。中沢、大橋、福本の3連打で1死満塁。正垣の左翼線二塁打で走者一掃。ここで近鉄は神部から太田幸にスイッチ。その代わりばなを3番高井が左翼へ2ラン。さらに長池、マルカーノが連打し、森本の四球で再び満塁。打者が一巡しウイリアムスが今度は右中間へ三塁打を放ちパ・リーグ新記録となる8連続得点の猛攻撃。投げてはエース山田が近鉄打線を5安打散発に抑えて、開幕戦勝利を完封で飾った。
「打つべき人が打ち、抑えるべき人が抑えた。申し分のない試合やのに…」
試合後、上田監督の声が沈んだ。この日、試合が始まった午後1時の気温が7・5度。4月上旬とは思えない寒さに加え、甲子園球場ではセンバツ高校野球真っ盛り。天理-福井、崇徳-鉾田一、北陽-鹿児島実の好カード。西宮球場の観衆は開幕戦というのに公式発表8千人。しかも序盤の一方的展開でシラケたファンが一斉に帰ってしまい、試合終了時点のスタンドは閑古鳥。
どうすればファンを引き留められるのか…。強すぎる勇者たちの新たな課題だった。(敬称略)