主張

敵基地攻撃能力 首相の先送り判断を疑う

 今年6月に配備計画を断念した地上配備型迎撃システム「イージス・アショア」の代替策を決めただけでは国の守りにとって十分とはいえない。侵略者に攻撃をためらわせる懲罰的・報復的抑止力の「敵基地攻撃能力」保有も欠かせない。

 だが政府は、18日の閣議決定で敵基地攻撃能力保有の判断を、期限も示さずに先送りにした。極めて残念である。菅義偉首相と岸信夫防衛相、自民、公明の与党が日本の守りを真剣に考えているのか疑わしい。

 閣議では、「イージス・アショア」2基の代替策として、海上自衛隊に「イージス・システム搭載艦」2隻を新造すると決めた。

 島嶼(とうしょ)防衛のため、陸上自衛隊の12式地対艦誘導弾の射程を延ばし、遠方から敵を叩(たた)く「スタンド・オフ・ミサイル」として開発することも決めた。

 イージス・アショアの代替策は艦船への搭載が最有力だった。イージス・アショアが想定していた北朝鮮の従来型弾道ミサイルにとどまらず、中露のものも含む巡航ミサイル、変則軌道のミサイルなどへの対処も実現してほしい。防衛省は地上型の失敗を繰り返さぬよう努めつつ、「搭載艦」の設計や配備を急いでもらいたい。

 12式地対艦誘導弾は長射程化した上で、陸自の車両からだけでなく空自機や海自艦船からも発射できるようにする。加藤勝信官房長官は18日の会見で「敵基地攻撃を目的としたものではない」と述べた。ただし、政策転換すれば巡航ミサイルとして相手領域内への攻撃に転用することは可能だ。

 今年9月に当時の安倍晋三首相が談話で「(ミサイル)迎撃能力を向上させるだけで本当に国民の命と平和な暮らしを守り抜くことができるのか」と指摘した。

 イージス艦や地対空誘導弾パトリオット(PAC3)で迎撃する「ミサイル防衛」だけでは国民を守り切れないと自衛隊の最高指揮官である首相が認めた意味合いは極めて重い。安倍談話は年内に敵基地攻撃能力をめぐる結論を得るとしていた。だが政府・与党で突っ込んだ議論もないまま、後継の菅首相はあっさり先送りした。

 転用可能なスタンド・オフ・ミサイルを造っても、政策変更がなければ自衛隊は関連装備の調達も作戦計画の策定も訓練も困難だ。菅政権による敵基地攻撃能力保有の決断が急務である。

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