鑑賞眼

「現代能楽集X 幸福論」 現代社会の宿痾を潜ませ

「現代能楽集X『幸福論』」の「隅田川」にて、家裁調査官(左、瀬奈じゅん)と少女(右、清水くるみ)は1人暮らしの老女(中央、鷲尾真知子)に出会う(細野晋司撮影)
「現代能楽集X『幸福論』」の「隅田川」にて、家裁調査官(左、瀬奈じゅん)と少女(右、清水くるみ)は1人暮らしの老女(中央、鷲尾真知子)に出会う(細野晋司撮影)

 狂言師・野村萬斎が芸術監督をつとめる世田谷パブリックシアターが企画する「現代能楽集」の第10弾。能・狂言の謡曲に着想を得て、現代演劇を生み出す。今回は「道成寺」(瀬戸山美咲作)と「隅田川」(長田育恵作)の2作品を瀬戸山が演出し、「幸福論」として通した。

 道成寺で描かれるのは、歪(いびつ)なエリート志向の煮こごりのような家庭。広告代理店を辞めて独立した父(高橋和也)と、高級コンサルティングサロンを経営する母(明星真由美)と、医学部4年の息子(相葉裕樹)。それぞれ他者を利用して幸せをつかもうとするが失敗する。因果応報の悲劇だが、グロテスクなユーモアがあり、客席からは笑いも起きた。

 場面転換が潔く、3人の因果が個別に展開していくので、映像化にも向いているのでは。親から刷り込まれた価値観は呪いに似ている。そこに疑問を抱いたとき、すでに迫っていた破滅が「火」をモチーフに表現された。

 一方の隅田川では、母と子のやりきれない物語を「水」をモチーフに表現した。不妊治療中の家裁調査官(瀬奈じゅん)は、万引をした少女(清水くるみ)を担当する。「罰して欲しい」と話す少女の悲しい秘密を、孤独な老女(鷲尾真知子)がすくい上げていた…。

 深い水底に沈まざるを得なかった少女を清水が、彼女の手をひいてもがく家裁調査官を瀬奈が、間に合わなかったけれど確かに守ろうとした老女を鷲尾が、それぞれ熱演。静かで、胃の腑に響くような重さが残る作品となった。安易な救いではない結末に、脚本と演出の誠実さを見た。

 対照的な2作品を、6人の出演者のみで通した。いずれも下敷きにした能楽を意識して、舞台装置はシンプルで象徴的。虚構の中に現代社会の宿痾を潜ませている。

 20日まで。東京都世田谷区の世田谷パブリックシアター、シアタートラム。問い合わせは、03・5432・1515。(三宅令)

 公演評「鑑賞眼」は毎週木曜日正午にアップします。