勇者の物語

無敗の日本一 タカラジェンヌも応援 虎番疾風録番外編131

山口たちに駆け寄る上田監督、歓喜のシーン。ちょっと、そこのカメラマン、邪魔ですよ!=西宮球場
山口たちに駆け寄る上田監督、歓喜のシーン。ちょっと、そこのカメラマン、邪魔ですよ!=西宮球場

■勇者の物語(130)

広島は阪急に勝てなかった。

③阪急7-4広島 九回表に阪急・中沢、大橋が連続本塁打。山口が157球の完投勝利。

④阪急4-4広島 1点差の延長十三回裏、2死満塁で広島・佐野が中前タイムリー。サヨナラ勝ちかと思われたが、二塁走者・木下のスタートが遅れて本塁憤死。

⑤阪急2-1広島 山田が8回7安打1失点。九回を山口が3人で締め、3勝2分けで〝王手〟をかけた。

◇第6戦 11月2日 西宮球場

広島 020 000 010=3

阪急 010 500 01×=7

【勝】戸田1勝 【敗】池谷1敗 (S)山口1勝2S

【本】中沢②(池谷)ホプキンス①(山口)

6-2の六回無死一塁、衣笠を打席に迎えたとき上田監督は、4連投のルーキー山口をマウンドに送った。快速球がうなり小気味よくカーブが決まる。衣笠、山本一を連続三振。広島の反撃ムードは一気に冷めた。午後4時24分、九回、最後の打者大下の右邪飛をウイリアムスが捕球。マウンドで山口がグラブを放り投げ、中沢が飛びつき、上田監督が両手を広げて駆け寄った。

「この日本一は親会社や球団、選手たちみんなが力を合わせて成し遂げた大仕事です」。お立ち台で上田監督が胸を張った。

もし、山口がいなかったら…。ドラフトで〝一番くじ〟を引いた近鉄が、予算不足を理由に山口の指名を回避。阪急とて経営の苦しさは同じだった。毎年2億円近い赤字。そんな中で阪急電鉄本社は山口への契約金5千万円を捻出した。

余談だが当初、入団交渉で山口の父は〝手取り〟で5千万円を要求した。実は山口が関大から松下電器へ入社する際、ドラフト4位で強行指名したヤクルトが「手取り5千万円」を提示。父もそれがプロの通例だと思っていた。

手取りとなれば支払額は9千万円を超える。本社もそこまでは出せない。結局、キューバ遠征から帰国した山口が「常識的な線でけっこうです」と申し出て決着した。

マルカーノやウイリアムス獲得のために上田監督が渡米。タカラジェンヌたちも応援に駆けつけた。そんな阪急グループが総力を挙げてつかんだ〝栄光〟である。(敬称略)

■勇者の物語(132)

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