ため池に浮かぶ図書館 モチーフは古墳? 大阪・松原

ため池に浮かぶ図書館 モチーフは古墳? 大阪・松原
ため池に浮かぶ図書館 モチーフは古墳? 大阪・松原
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 ため池の中に、建物が浮かんでいるようだ。今年1月に全面オープンした大阪府松原市の市民松原図書館「読書の森」は、周囲に濠を巡らせた古墳をイメージした建築で、訪れた人を驚かせている。一方、堅固な壁に守られた図書館の内部は、利用者にゆっくり過ごしてもらう工夫がちりばめられている。古代、人の手によって作られた古墳が、今ではすっかり松原の自然と地域になじんでいることにならい、市民の暮らしに溶け込むことを目指す。  

(大島直之)

厚さ60センチの外壁

 全面オープンから約1年たった読書の森は、松原市役所近くの、住宅街に囲まれた田井城今池親水公園の中に建っている。周囲をため池の水が囲み、遠くから眺めると、赤茶色の巨大な建物が池に浮かんでいるように見える。

 「古墳やため池といった松原の風景を図書館で表現したかった」

 設計施工を担当したのは、東京に拠点を置く設計事務所「マル・アーキテクチャ」と、建設会社「鴻池組」。マル・アーキテクチャ主宰の建築士、高野洋平さんは、図書館を古墳にみたてた理由をこう話す。

 松原市周辺は、古代、飛鳥と難波を結ぶ交通の要衝であったことから、巨大前方後円墳の河内大塚山古墳をはじめとした古墳や古墳の痕跡が10以上点在している。また、近現代には新田開発が進み、農業用に多くのため池が作られ、現在も40近くを残している。

 こういった、古代から現代にかけて残された大規模な人工物が、いつしか自然と一体となって原風景のようになっている松原。高野さんたちも新図書館にもそういった存在になってほしいと期待する。

 「図書館は町の中に残る公共建築。建てられてから長い間そこに存在するため、歴史や文化を感じさせるものを作りたかった。人工物でも、長い年月を経て自然物のような存在になってほしいという思いがある」

ため池を活用、湿気対策は?

 平成29年、旧市民図書館の老朽化に伴う建て替えが決まると、公募で集まった4案のうち3案までは、田井城今池親水公園内のため池を埋め立てる設計だったが、ため池を活用したマル・アーキテクチャらの提案が採用された。

 31年1月までに、池の水を抜き、建設工事をスタート。鉄筋コンクリート構造の外壁は、水を遮るために通常の約3倍となる約60センチと分厚く設定した。

 堅固な壁はインパクトのある見た目を生み出しただけでなく、さまざまなメリットをもたらした。池全体を埋め立てる必要がなく、工期が短縮されたほか、高い断熱性も副産物に。エアコンに依存しすぎない空調管理ができるようになり、図書館らしい静かな環境が確保できるという。

 一方、池に囲まれていることで本にとって大敵の湿気も懸念されたが、管轄する市いきがい学習課は「分厚い外壁を持つこと、自然風が通り抜けて換気が十分にされていること、そして書庫が2階にあること、などの理由で実は湿気による被害はない」と明かす。

自然を生かした快適性

 旧の中央図書館には、自習室がなく、閲覧席が少なかったことから、新しい図書館には、利用者がゆっくりすごせる環境作りも期待されていた。その点でも、分厚い壁によって耐震性が高められ、内部はより自由度の高い空間設計が可能になったという。

 館長を務める白井優子さんが案内してくれたのが、窓際に作られた閲覧ゾーンだ。暖色の電気スタンドが設置され、窓からは穏やかな水面と鴨が泳いでいるのが見える。ふた付きの飲み物を持ち込むことが可能。大型書店でコーヒー片手に読書するスタイルは、広まりつつあるが、飲食コーナーのある図書館はまだ珍しい。「コーヒーを飲みながら落ち着いた雰囲気で読書ができると好評のスポットです」と白井さん。

 また、3階は子供たちの専用フロアにした。通常、児童書は子供の動線を考慮し、1階に配置することが多いが、ここではあえて1階の一般書とフロアを分けて、子供たちが少々さわいでも気にならないような設計にした。このほか屋上スペースを開放し、閲覧スペースも確保している。

 現在、来館者数は月約2万人。新型コロナウイルス感染拡大の影響もあり、旧の図書館と直接比較はできないものの、市いきがい学習課は「開館時間を延ばしたことや、自習室を整備したことで利用者は増加傾向にあるのではないか」と考える。手束元信課長は「屋上、自習室、テラスなど今までの図書館にはなかった快適に過ごせる工夫が施されている。ぜひ多くの人に利用してほしい」と話す。

 松原の人たちの暮らしに溶け込む、居心地のよい図書館作りは始まったばかりだ。