コロナ禍を経た化粧品業界で、デジタルシフトが一気に加速する

「ネット通販の流通ルートに供給をシフトさせすることに成功した企業は、それほど多くの値下げセールをせずに済んでいます。しかし、値下げしているブランドが多いのには驚かされます」と、ガーステルは言う。

Orchard Custom Beautyのロスの考えでは、この「値下げ」という戦略は、あらゆるブランドや製品に適したものでもない。「化粧品とファッションは独特なところがある業界で、高級ブランドの場合は特にそうです。ブランドを代表するシグネチャー商品の場合は値下げしたがらないので、バーゲンの対象から外したり、廃棄処分にしたりします。業界の暗い秘密ですね」と、彼女は言う。

ファッションやマルチプロダクトのブランドと協力して売れ残りの在庫を最大限活用することをビジネスにしているParker Lane Groupの最高経営責任者(CEO)のラフィー・カサルジャンは、長期間の割引セールはブランドにとって百害あって一利なしだと警告する。

「40パーセントオフや60パーセントオフなどと考える人もいますが、本当に自分のブランドにそんなことをしたいと思いますか? そんなことをする価値があるのでしょうか? そのようなことをすれば、長期的な影響が出てしまいます」と、カサルジャンは言う。「ブランドは広告に多くの金額を費やしています。それはブランドの価値を構築するということです。アウトレットに売り払ったり大幅に値下げしたりすることは、まったく筋が通っていません」

成功した主力商品と長い歴史をもつブランドは、自社の得意なことへの投資を倍増させる余裕があるはずだ。新しい取り組みができないなら、満足のいく顧客レビューを得た定番商品をオンラインで簡単に買えるようにすれば、買い物客はより「安全な賭け」であると感じられるだろう。

「何かひとつを一貫して生産し続けていて、その製品自体にイノベイションの余地がないなら、できる限りそれにしがみつくのが正しい方法です」と、カサルジャンは言う。

変化するサービスとトレンド

テクノロジーによって店頭での購買に代わる新たな体験を提供しているブランドもある。ビューティーパイのほかにも、「Aesop(イソップ)」「Charlotte Tilbury(シャーロット・ティルブリー)」「Guerlain(ゲラン)」「DECIEM(デシエム)」などのブランドも、バーチャルコンサルティングに対応している。一方、ロレアルやMAC、エスティ ローダー、ベアミネラルは、バーチャルトライオン(オンライン上で自身やモデルの写真を使って商品の色味などを確認できるサービス)が可能だ。どちらもコロナ禍以前に始まったばかりだった試みである。

「とにかく顧客と接点をもつことはいいことです」と、マッキンゼーのガーステルは言う。「顧客がこのようなサービスの利用を始めると、購買率が40パーセント以上も増加しているそうです」

買い物の方法が変化すると同時に、売買されるものにも変化が現れてくる。着心地のよい快適な衣服がよく売れているのと同じように、パンデミック以降は美容業界でスキンケアやヘアケア、ボディケアやネイルポリッシュなどの「セルフケア」製品がメイクアップ用品の売り上げを上回っているという報告もある。

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