コロナ禍を経た化粧品業界で、デジタルシフトが一気に加速する

化粧品業界は08年の不況からわずか2年で立ち直り、回復力のある業界と考えられてきた。それでも、いま未曾有の事態に陥っている。店舗のシャッターは閉まり、免税店に人影はなく、買い物客は家に閉じこもっているのだ。

「情報が少なくても、素早く行動を起こさなければなりませんでした。不確実性とパニックのなかでじっとしているか、それとも、現状を打破すべくイノベイティブになるかが問われていたのです」と、化粧品メーカーのOrchard Custom Beautyで物流管理や関税問題を担当するオードリー・ロスは言う。同社は「Urban Decay」や「Glossier」「エスティ ローダー」「John Lewis」などのコスメブランドを顧客にもつ。彼女によると、この困難に対応できている企業もあれば、麻痺状態に陥っている企業もあるという。

迫られるデジタルシフト

多くの企業がパンデミックによる収入減と戦うには、人々が買い物を続ける唯一の場所--すなわちインターネットに重点を移すほかなかった。化粧品業界にとって長らく、ネット通販は二の次でしかなかった。なぜなら、わたしたちの生活が続々とオンラインへと移行していくなかでも、化粧品はどの世代も実店舗で購入する傾向が高かったからだ。

「製品を試したり、どれでも自由に手を伸ばしたりできるから店に足を運ぶわけです。だからこそ、買い物が楽しかったのです」と、マッキンゼーのアソシエイトパートナーであるエミリー・ガーステルは言う。

こうしてビューティーパイのようにネット通販で展開するブランドは、パンデミックが猛威を振るい始めると優位な立場に立つことになった。「わたしたちはD2Cビジネスをしているだけでなく、ロックダウンやパンデミックにおいても化粧品を販売できる体制が整っていたので、本当にラッキーでした。次に来る成長の転換点に備えて、常に多くの在庫を確保していたのです」と、キルゴアは言う。具体的な数字は明らかにしなかったものの、ビューティーパイの新規会員はコロナ禍以前の3倍のスピードで増加しているという。

一方で、実店舗での購買体験を重視してきた古くからの高級ブランドや新鋭ブランドも、オンラインショッピングの潮流に追いつこうと努力している。「多くのブランドが在庫を(直販サイトに)移しています。オンラインでの注文に対応するために従業員が店舗に出向き、在庫を出して店内で包装している会社もあるほどです」と、ガーステルは言う。

「値下げ」との葛藤

こうしたストレスに加えてプレッシャーをさらに強めているのが、デジタルに精通した仕入れ屋--つまり百貨店のウェブサイトやマルチブランドの小売業者との競争である。

これらの企業は会員にポイントサービスや定期的な割引を提供し、消費者が比較・選択できるように幅広い商品を取り揃えている。結果として、このプレッシャーに耐えかねて「下向きの競争」が発生し、顧客を引きつけるためにオンラインで値下げするブランドも出始めた。

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