その16年後の23年3月の東日本大震災の被災地でも、よく似た光景が各地でみられた。避難所となった学校の体育館などはたくさんの人であふれ、廊下やトイレの前にまで段ボールを敷いて横たわる人の姿も見られた。
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東日本大震災で甚大な被害を受けた岩手県で300カ所以上の避難所で調査や支援を行ったチームを率いた岩手医科大の桜井滋教授(感染制御学)は「避難所は無理やりに集団を作らせるところだった。ウイルスにとっては感染を広める格好の場だった」と説明する。
阪神では900人以上、東日本大震災では3700人以上が災害関連死で命を落とした。その後も教訓は生かされず、28年の熊本地震では熊本と大分の両県で221人と、直接的な被害で亡くなった人の約4倍にも上った。
だが、コロナ禍によって皮肉にも避難所は変化の兆しを見せている。これまでは、手指を消毒する薬剤やマスクが求められることはなかったが、今ではこうしたものが求められるようになったためだ。
「初めて感染症が大変なことなのだという理解が広がった。10年前からは長足の進歩です」。桜井氏は話す。
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とはいえ、海外に比べると、日本の避難所の環境整備は遅れている。
国内外の避難所を訪問してきた新潟大の榛沢(はんざわ)和彦特任教授(心臓血管外科学)も「欧米に比べ環境整備が遅い。今回はたまたまコロナがはやらなかっただけだ」と警鐘を鳴らす。
避難所・避難生活学会によると、欧米では発災から48時間以内に、簡易ベッドやトイレなどの提供、ホテルなどへの避難を法律で制定している国もある。日本の避難所のような雑魚寝をする避難者の光景は、発災数日で見られなくなるという。榛沢氏は「欧米では、災害時の市民保護は戦争時にどうやって国民を守るかに通ずる。この考えが日本には欠け落ちている」と指摘する。