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体育館には段ボールで作られたベッドが整然と並び、世帯ごとに間仕切りがつくられ、私的な空間が確保された。保健師らが避難者の検温や体調の聞き取りを重ね、入り口では念入りに体調確認が行われていた-。
7月に発生した豪雨災害で、甚大な被害が出た熊本県人吉市の避難所「人吉スポーツパレス」の光景だ。一時、最大で約830人の被災者が身を寄せたが、「ベッドが心地よかった」「避難所は想像以上に快適だった」などと好意的な声が上がった。
今年、国内外で新型コロナウイルスが感染拡大し、豪雨に襲われた九州の被災地では、避難所でのクラスター(感染者集団)発生が懸念されていた。当初から段ボールベッドの導入を呼び掛けていた「避難所・避難生活学会」の水谷嘉浩理事も「雑魚寝では床に付着したウイルスを吸引し、感染が広がるかもしれないという意識を行政側からも感じた」と振り返る。
避難所での衛生管理に対する考え方に加え、国からも消毒液やマスクなどの物資調達が早期に進んだことも奏功し、クラスターを招かなかった。災害での疲労やストレスから体調を崩し死亡する「災害関連死」として、災害弔慰金の支給を申請したのは、12月1日時点で人吉市での2件にとどまっている。
被災者の災害関連死は、平成7年1月の阪神大震災で初めて、災害弔慰金制度の対象として認められた。
当時は学校の体育館など人が集まりやすいところが避難所となった。そのため、大勢の人が押し寄せ、毛布にくるまった人たちが所狭しと雑魚寝した。
当然、私的な空間という考え方もなかった。感染症対策もままならず、インフルエンザやノロウイルスが広まった。不衛生なトイレなどの環境のもとで体調不良やストレスを引き起こし、災害関連死として、亡くなる例も相次いだ。