勇者の物語

指名回避の代償 放出した主砲のひと言「速球王」生む 虎番疾風録番外編127

西本近鉄の前に立ちはだかったルーキー山口(左は上田監督)
西本近鉄の前に立ちはだかったルーキー山口(左は上田監督)

■勇者の物語(126)

第3戦をベテラン足立の3安打完封で勝利した阪急は、3年ぶり6度目のリーグ優勝に〝王手〟をかけた。そして迎えた第4戦、ルーキー山口が2度目の先発のマウンドに上がった。

◇第4戦 10月20日 藤井寺球場

阪急 200 001 002=5

近鉄 000 003 000=3

【勝】山口2勝 【敗】芝池1勝1敗

【本】福本(1)(芝池)加藤(1)(芝池)

3-0の六回、山口は無死満塁のピンチを迎えた。佐々木に右翼線へ2点二塁打、西村にスクイズを決められ、同点に追いつかれてしまう。だが、ベンチの上田監督に交代させる気は全くない。

第2戦でも同じことがあった。3-4とリードされた八回、山口は無死一、三塁と絶体絶命のピンチに立った。このときすでに投球数は170球近い。だが、ベンチは動かない。山口は速球で押した。羽田を投ゴロ、石渡を浅い右飛、そして代打ジョーンズを三振に切って取った。

「変化球を投げるなんて考えてなかった。ここまで来て緩いタマを打たれたら悔いが残るじゃないですか」。その裏、長池の逆転2ランが飛び出した。

この試合も山口は勝ち越し点を与えない。そして九回、1死から福本が右翼ポール際へ決勝アーチ。2死後には加藤も右翼へ叩き込んだ。3年ぶりのリーグ優勝。山口は胴上げ投手になった。

速球、速球で押す山口。実は入団したばかりの山口は変化球に頼っていた。初登板の4月11日の日本ハム戦(後楽園)で救援に失敗。同月19日の太平洋戦では0-2の七回2死二塁で4番・土井に痛打された。「オレはプロでやっていけるのか…」。自信を失いかけたとき、福本が声を掛けた。

「タカシよ、土井さんに叱られたわ。〝山口は真っすぐが一番打ちにくいのに、なんで変化球を投げさせるんや〟と」

同月22日の南海戦でプロ初先発。3安打9奪三振、1失点で完投勝ち。山口は142球中なんと9割、ストレートを投げ込んだ。

チームを作るために放出した主砲・土井のひと言が「速球王」を生み、西本近鉄の前に立ち塞がるとは、なんとも皮肉な巡り合わせ。ドラフトで指名を回避した〝代償〟でもあった。(敬称略)

■勇者の物語(128)

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