鑑賞眼

シス・カンパニー「23階の笑い」 かつて存在した輝ける日々

人気コメディアンのマックス・プリンス(左手前、小手伸也)のオフィスでは、ミルト(左奥、吉原光夫)、キャロル(中央、松岡茉優)、ブライアン(右、鈴木浩介)ら放送作家が日々しのぎを削っている(宮川舞子撮影)
人気コメディアンのマックス・プリンス(左手前、小手伸也)のオフィスでは、ミルト(左奥、吉原光夫)、キャロル(中央、松岡茉優)、ブライアン(右、鈴木浩介)ら放送作家が日々しのぎを削っている(宮川舞子撮影)

 1953年、ニューヨークの高層ビル23階の一室、テレビで冠番組を持つ人気コメディアンとその放送作家たちの輝かしい日々を描いた「23階の笑い」。アメリカを代表する喜劇作家、ニール・サイモンの自伝的作品を、放送作家としての経歴を持つ喜劇の名手、三谷幸喜が演出した。

 若きライター、ルーカス(瀬戸康史)が加入したところから始まる物語は、23階の雑然としたオフィスを定点観測。メンバーは人気コメディアンのマックス・プリンス(小手伸也)以下、全員が口を開けば毒舌とギャグの応酬ばかり。気に食わないことがあれば、靴を窓から投げる、壁を殴って穴を空ける、けんかもする…。まるでおりのない動物園で、増える壁の穴の数やクリスマスの飾りで時間の経過を実感する。

 コント作りに情熱を燃やす個性的な彼らのやりとりは、いちいちバカバカしくウイットに富んでいる。ひときわ長身の吉原光夫が演じる目立ちたがり屋ミルトの「白スーツを着ていることが上司(マックス)に絶対にバレてはいけない」くだりで吹き出してしまった。これまで吉原がコメディーと無縁だったとは信じられない。

 そんな愉快で騒がしい日々だが、冒頭から終わりの足音は聞こえていた。1953年といえば冷戦初期。マッカーシーによる赤狩りが激しさを増すなかで、視聴率至上主義のテレビ局上層部はもっと大衆受けするコンテンツを求め、政治ネタを扱う彼らの番組を必要としなくなっていく。

 ふざけてばかりの面子だからこそ、テレビ局上層部が権力に忖度(そんたく)することへの憤りや、遅刻魔アイラ(梶原善)の物乞いに対する「何か違えば、あそこにいたのはオレだったかもしれない」、紅一点キャロル(松岡茉優)の「性別でなく仕事で評価されたい」といった、フッとのぞかせる本音が重い。

 ルーカスの目を通して観客は1つの時代の終わりを見る。作品の根底にあるのは、過ぎ去ったものへの愛と、確かに彼らがいたことの存在証明だ。

 27日まで。東京都世田谷区の世田谷パブリックシアター。問い合わせはシス・カンパニー、03・5423・5906。(三宅令)

 公演評「鑑賞眼」は毎週木曜日正午にアップします。