昭和50年、上田利治監督も思い切った体質改善を図った。内野にマルカーノ、外野にウイリアムスを入れ、この年から採用された「指名打者」に長池を起用。攻守にバランスの取れたチームを作り上げた。38勝25敗2分け。2位の太平洋に6ゲーム差をつけて前期を制していた。
さぁ、西本近鉄とリーグ優勝をかけての〝師弟対決〟。だが…。
「佐々木に平野に有田…近鉄の選手は威勢がようてピチピチしてる。ぼくらの若い時代とよう似てるわ」。30歳を超えた大熊や長池が目を細めた。決戦とは思えぬのどかなムード。
◇第1戦 10月15日 西宮球場
近鉄 020 207 000=11
阪急 201 010 201=7
【勝】芝池1勝 【敗】山田1敗
【本】有田修①(足立)マルカーノ①(鈴木)大熊①(鈴木)伊勢①(山田)
近鉄の下位打線、有田修-西村-石渡がともに3安打で6打点。六回には山田が伊勢に満塁ホーマーを浴びて勝負あり。ちょっとした気の緩みで招いた敗戦だった。「こうなったら、あしたも勝って一気にリーチをかけたるで!」。西本監督の雄叫びが勇者たちの耳に届いた。
◇第2戦 10月16日 西宮球場
近鉄 300 010 000=4
阪急 001 001 12×=5
【勝】山口1勝 【敗】神部1敗
【本】マルカーノ②(神部)河村①(神部)長池①(神部)
勇者たちの顔つきが変わっていた。先発・山口が失った4点を三回、福本のタイムリー、六回にはマルカーノ、七回には河村の一発で追い上げる。そして迎えた八回、代打高井が中前安打で出塁。続く加藤の当たりは遊ゴロ。
6-4-3の併殺かと思われた。ところが、遊撃・石渡が自ら二塁ベースを踏みにいった。そのため一塁への送球が遅れた。1死一塁。「走者が残ってしもた…」。神部の気落ちを長池は見逃さなかった。1-2後の4球目。内角低めのスライダーを左翼中段へ叩き込んだ。逆転の2点ホームラン。
試合後、福本はこう言った。
「師弟対決やない、兄弟対決や。ボクらの方が〝兄貴〟やから、強くて当たり前や-と最後に胸を張ったるんや」(敬称略)