浪速風

冬の日 ともにコロナと戦いたい

 藤沢周平の時代小説は、ときにささやかななぐさめともなる。こんな時期なら短編「冬の日」がいい。子供のときつながりのあった清次郎とおいしが、それぞれに苦労を重ねた後に再会する。師走になって10日ほどたったころ、おいしが清次郎を訪ねてくる。

 ▼「辛(つら)かったのね」「そりゃ辛かったさ。でも、あんただって、ずいぶん辛い思いをしたんじゃないの」。ためらいがちにいたわり合おうとする男女の姿がとてもいい。逆境にある人間を描きながら藤沢は、そっとその人物たちを後押ししようとする。

 ▼新型コロナウイルス禍は第3波のさなかにある。大阪は非常事態となり、厳しい状況である。「辛かった」と過去形で語ることはまだできない。つらい戦いは続くだろう。でも1人で戦っているのではない。すすり泣くおいしに清次郎は、店を一生手伝ってもらいたいという。おいしは涙をふいて振り向き、手を伸ばした清次郎のもとにゆっくりと歩んできた。

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