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積雪前のほ場に種籾を直播(じかま)きする世界でも例のない「イネの初冬直播き栽培」が今冬、農家の注目を集めている。岩手大学農学部植物生命科学科の下野裕之教授(47)の10年以上にわたる研究で実用化が現実味を帯びてきたからだ。下野教授の研究の協力者として初冬直播き栽培に挑戦した農家は昨年まで、弘前市(青森県)▽北上市(岩手県)▽上越市(新潟県)-のわずか3県3戸だったが、今年は9道県に急拡大、戸数も5倍を超える16戸に達した。(石田征広)
出芽率40%
「イネの初冬直播き栽培」は実用化できればコメづくりで最も費用と手間がかかる春の育苗や田植えを省ける画期的な栽培方法だ。農家の高齢化や担い手不足の有効な対策として、下野教授が平成20年から研究に取り組んできた。今年、挑戦する農家が急増したのは、最大の懸案だった種籾を冬の寒さから守って翌春に高い出芽率を実現できるコーティング材のメドが立ったためだ。
試行錯誤の末に下野教授がたどり着いたコーティング材は、種子の消毒剤として使われる農薬の一種であるチウラム水和剤。それまでは鉄粉中心のコーティングで出芽率は20%前後。ところが昨年、同剤をコーティングした種籾は出芽率が従来のほぼ2倍に達し、実用化の目安とされている出芽率40%を安定的にクリアしたのだ。
同時に、直播きする最適の深さが3センチであることを突き止め、機械で種籾を直播きする場合はローラーで地表面を固める鎮圧を行うと翌春の出芽率が高くなることがわかった。直播き時期も北海道は10月、青森、岩手、秋田3県は10~11月、山形、福島、新潟3県は11月以降が適期であることを確認するなど、実用化に向けた成果を積み重ねてきた。