主張

東京の自粛要請 この期に及んでお願いか

 菅義偉首相と東京都の小池百合子知事が観光支援事業「Go To トラベル」の東京発着の旅行について、重症化リスクの高い65歳以上の高齢者や基礎疾患のある人を対象に利用自粛を呼びかけることで合意した。

 この期に及んで「お願い」である。政府と首都のトップによる判断は、あまりに遅く小さい。

 新型コロナウイルスの感染拡大は確実に進んでいる。全国の重症者数は最多の更新を続けている。東京都の新規感染者は、2日も500人の大台に乗った。

 政府の新型コロナ感染症対策分科会は11月25日、札幌、大阪両市と東京23区をステージ3(感染急増)相当地域として往来を3週間控えるよう提言した。これを受けて札幌、大阪市を目的地とする旅行を3週間、事業の対象から除外し、出発地とする旅行についても全世代に自粛を呼びかけた。

 だが東京については都が「国が決めること」、政府は「知事の判断を尊重する」と判断を押し付けあい、いたずらに時を浪費し、その間も感染は広がり続けた。

 ようやくの「合意」についても小池氏は「停止または自粛をするということで(国に)投げかけ、結論として自粛をお願いする形で落ち着いた」と話し、菅首相は「都の対応として理解できる」と述べるにとどまっている。

 あげくの結論が重症化リスクの高い人のみへの自粛のお願いである。札幌や大阪と異なる判断となった理由について、小池氏は「東京の経済規模は極めて大きく、全国への波及効果も大きいため」と説明した。

 分科会の尾身茂会長は27日の衆院厚生労働委員会で「個人の努力に頼るステージは過ぎた」と述べ「感染拡大地域とそうでない地域との行き来を控えるのは必須だ」と強調していた。提言は全く顧みられなかったことになる。

 そもそもトラベル事業は移動の奨励であり、自粛要請とは矛盾している。経済の重要性は理解するが、感染の様相をにらみながら弾力的に運用されなければ、拡大を致命的にし、経済にさらなる悪影響を与えかねない。

 自民党は政府に、トラベル事業を来春の大型連休ごろまで延長することを求めている。感染の収束を図る方が先ではないか。観光産業の支援については別途、方策を検討してほしい。

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