インド太平洋地域で中国が多国間の貿易枠組みを活用して影響力拡大を図っている。トランプ米政権は日米豪印4カ国(クアッド)などで外交・安全保障を軸とした中国包囲網の構築を進めてきたが、環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)の離脱などによって同地域経済への関与を弱める結果となった。米中双方が多国間連携を駆使する中、東南アジア諸国連合(ASEAN)やオーストラリアからは中国の影響力拡大への懸念が出ている。
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≪ポイント≫
・中国はTPP参加を通し米国を切り離し
・TPPは米中対話枠組みになる可能性も
・RCEPで中国への依存度低下が困難に
・中国によるルールに基づいた行動が重要
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■中国 影響圏拡大で米の包囲網崩し
中国は、インド太平洋地域を中心とした多国間の貿易枠組みへの関与姿勢を強めている。11月15日には日中韓など15カ国が地域的な包括的経済連携(RCEP)に署名。20日には習近平国家主席が環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)への参加意欲を初表明したほか、日本を訪問した王毅国務委員兼外相は日中韓の自由貿易協定(FTA)交渉の推進に意欲を見せた。
中国が、米国の存在を意識しているのは言うまでもない。共産党機関紙、人民日報系の環球時報は21日付の社説で、RCEP署名などについて「米国と西側諸国の一部世論が中国に対し『ルールを破壊している』と非難していることと、(実際に起きていることは)明らかに正反対だ」と主張。米国による対中批判への反論材料に使った。
トランプ米政権は「対中包囲網」の構築を進めてきたが、それと同時にTPPからの離脱など多国間の貿易枠組みには距離を置いた。中国はそこを突き、自国の影響が及ぶ経済圏を広げて対中包囲網の切り崩しを狙う。武器は世界2位の経済規模だ。