落語は古典芸能だから、昔から残っている芸能から学ぶことは多い。たとえば映画だったら銀幕の時代の映画。近頃はハンフリー・ボガートの映画をひと通り見てみた。
ハンフリー・ボガートの魅力は、そんなに二枚目すぎないところだ。あんまりかっこよすぎると、男としてついついうらやましくなってしまう。ボガートは悪役からたたき上げた演技派だから、どちらかというとコワモテだ。コメディーをやっても面白い。そして特徴のあるダミ声が耳に残る。
「化石の森」はボガートの出世作となった映画だ。ブロードウェーで人気だった舞台を映画化したものだ。舞台で主演を務めたレスリー・ハワードの推薦で、一緒に映画に出られることになったそうだ。
内容は砂漠のカフェに強盗が乗り込んでくるという話。ボガートの役は強盗一味のリーダーで、当時のギャングとして有名だったデリンジャーを参考にして、歩き方から何から研究したそうだ。チャンスをものにしようという気迫のこもった演技。こういう一流俳優の駆け出しの頃のエピソードを聞くと、いろいろとためになる。
「彼奴(きやつ)は顔役だ」はジェームズ・キャグニー主演の映画。第一次世界大戦の戦友同士がギャングの世界に身を投じていく。主役のキャグニーもこの映画で名演を残しているけど、ボガートの卑怯(ひきょう)な悪役っぷりが面白い。ボガートの演じたなかでも一、二を争う悪者ぶりだ。
ギャング映画の大御所マーティン・スコセッシは、この「彼奴は顔役だ」が大好きだそうだ。またフランシス・フォード・コッポラの代表作「ゴッドファーザー」にもずいぶん影響を与えたとのこと。「彼奴は顔役だ」はギャング映画の古典といえるかもしれない。