勇者の物語~「虎番疾風録」番外編~田所龍一(118)

無謀な指名 「江川を落とせる」本気で思っていた

阪急が1位指名した甲子園の「怪物」江川
阪急が1位指名した甲子園の「怪物」江川

■勇者の物語(117)

昭和48年のドラフト。注目は2人の選手に絞られていた。慶大のスラッガー山下大輔と作新学院の江川卓である。

山下は慶大の「4番・遊撃手」。48年春のリーグ戦では打率・450で首位打者に輝き、守備も堅実。「腕よし、顔よし、スタイルよし」。もちろんプロ入り希望。一方の江川は早くから「慶大進学」を表明し、プロ拒否の姿勢。当初は「巨人の策謀か」とも噂されたが、栃木県小山市の実家を訪ねた各球団のスカウトたちも「進学希望は本物」と諦めはじめた。

11月20日、午前11時半から東京・日比谷の日生会館でドラフト会議が始まった。予備抽選のあと本抽選。「一番くじ」は2年連続で大洋が引き当てた。阪急は6番目。

予想通り大洋が山下を指名。「オオォ」と羨望のため息が会場を包む。続いて南海が藤田、近鉄が栗橋、日本ハムが鵜飼、中日が藤波。やはり、どの球団も江川指名を回避。そして阪急の番になった。「江川卓 投手 作新学院」。今度は大きなどよめきが会場を包んだ。

1位指名は次の通り。

①大 洋  山下大輔 内 慶大

②南 海  藤田学  投 南宇和高

③近 鉄  栗橋茂  外 駒大

④日本ハム 鵜飼克雄 投 四国電力

⑤中 日  藤波行雄 外 中大

⑥阪 急  江川卓  投 作新学院高

⑦広 島  木下富雄 内 駒大

⑧阪 神  佐野仙好 内 中大

⑨太平洋  山村善則 内 大鉄高

⑩巨 人  小林秀一 投 愛知学院大

⑪ヤクルト 佐藤博  投 日立製作所

⑫ロッテ  佐藤博正 投 札幌商高

阪急の渓間秀典代表は江川指名に胸を張った。

「江川君は戦後最大の大物です。プロである以上、指名するのは当然です。チャンスがあれば無条件で指名しようと待っていたんです。阪急全社をあげて説得に当たります。場合によっては米田や梶本、スター選手を動員しても…」

なんの策も講じず、誠意だけで真正面から説得。しかも、ウチのスター選手が出馬すれば江川も感激。落とせる-と球団首脳は本気で思っていた。

「無謀な指名」はこうして行われたのである。(敬称略)

■勇者の物語(119)