日中両外相の共同記者発表で、中国の王毅国務委員兼外相が、尖閣諸島(沖縄県)周辺海域に日本漁船は入るなと言わんばかりの暴言を吐いても、日本側は総じて「笑顔」で応対した。
米国、オーストラリア、インドとともに「自由で開かれたインド太平洋」を目指す日本の対中外交がこれでいいのか。
ビジネス関係者の往来再開などで合意した茂木敏充外相は「率直かつ充実した内容の会談だった」と振り返ったが、喜んでいる場合ではない。菅義偉首相と茂木氏は中国のさまざまな問題行動に対する日本や国際社会の怒り、懸念をもっと明確に伝え、中国に翻意と反省を促すべきだった。
王氏の暴言、詭弁(きべん)にはあきれるばかりだ。記者発表で日中が「互いに脅威とならないという精神を堅持」することで合意したと語った。だが、その精神のかけらもないのが今の中国だ。
尖閣諸島を奪おうと公船は領海に侵入し、軍は東シナ海などで自衛隊の航空機や艦船に挑発を繰り返している。王氏は尖閣諸島について「自国の主権を守っていく」と述べ、「敏感な水域における事態を複雑化させる行動を回避」するよう日本に求めた。盗っ人たけだけしいとはこのことである。
尖閣諸島海域をめぐって茂木氏は「日本側の立場を説明し、中国側の前向きな行動を強く求めた」と語ったが、中国公船の即時退去を公然と求めるべきだった。
茂木氏は、香港の民主派議員の資格剥奪など一連の問題に懸念を伝え、「一国二制度」を守るよう求めた。新疆ウイグル自治区の人権状況を明かすよう促した。妥当だが、これらの内容を一層明瞭に内外に発信すべきである。
菅首相は王氏に、安定した日中関係が重要だと指摘した。尖閣周辺で相次ぐ中国公船の航行や香港情勢に懸念を伝えた。
会談後、王氏は「この(尖閣)問題が両国関係の発展に影響しないように取り組みたい」と述べた。尖閣への手出しをやめない中国の勝手な言い分である。甘言に乗って融和を進めては危うい。
尖閣や南シナ海、香港の民主活動家収監を含む人権などの問題が解決の方向へ進まずに安定した関係は築けない。国民の多くは中国の行動を懸念している。それが払拭されなくては、習近平国家主席の国賓来日も容認できない。