朝晴れエッセー

ピアノの旅立ち・11月25日

わが家のリビングにでんと構えていたピアノが先日、孫娘のもとに旅立っていった。

壁に残された跡形を目にすると、ピアノとのふれあいが懐かしく思い出される。

ピアノは、音楽教室に通い始めた長女のために購入。40年ほど前である。当時社宅住まいの居間に納められたピアノはとても大きく、まぶしく見えた。

楽器にあまり縁のなかった私にとっても、あこがれのピアノであった。ピカピカの鍵盤に初めて触れ、美しい音色が部屋いっぱいに響いたとき、子供たちと歓声を上げ喜び合ったことが、忘れられない。

わが家の一員となったピアノは、その後3人の子供たちの音楽学習の相手となり、ふれあいが多くなっていった。

最初は弾けなかった曲が、練習を重ねて美しいメロディーとなったとき、音楽の楽しさを子供たちに伝えてくれたと思う。

子供たちの成長を見守ってくれたピアノは、ここ数年弾く人もなく、少し寂しそうに、老夫婦のもとで余生を送っていた。

思い出深いピアノ故に、行く末を心配していた矢先、遠方に住む孫娘がピアノのレッスンを始めることになり、旅立ちとなった。

この古びたピアノが命を吹き返し、ふたたび活躍できることをうれしく思った。今度は孫娘の手で美しい音色を奏でて、また成長を見守ってくれることを、心より願っている。

岡田知子 78 静岡県袋井市