大国主命(おおくにぬしのみこと)の最初の妻「八上姫(やかみひめ、やがみひめ)」をヒロインに観光振興を図るプロジェクトが、鳥取市でスタートした。八上姫を祭る「売沼(めぬま)神社」(同市河原町)を拠点に周辺の観光施設などと連携。「絆」「つながり」「ご縁」をキーワードに、メインターゲットを30歳前後の女性に設定し、女子旅やカップル、子連れ家族といった若い層を「八上姫の里」に呼び込む考えだ。
大国主命ゆかりの地が点在
「海外に住んでいたとき、日本の神話を英語で読んだ。大国主命と白兎(しろうさぎ)は出てくるが、八上姫は出てこなかった」。八上姫を主役に打ち立てたプロジェクトのきっかけは、鳥取商工会議所会頭で「古事記・八上比売」観光活用推進協議会会長を務める児嶋祥悟さんの、こんな心のひっかかりだった。「15年ほど前、鳥取市の観光協会会長をしていたときに白兎(はくと)神社を整備し、今は観光客が大勢つめかける観光地になっている。河原町には八上姫の売沼神社がある。神社を若い人の出会いの場にしたい」と夢を描いた。
《♪大きな袋を肩にかけ大黒さまが来かかると》
児嶋さんが言う大国主命と白兎の物語とは、童謡「大黒様」で歌われている因幡の白兎神話。サメに皮をむかれ丸裸にされた白兎に、大国主命(大黒様)の異母兄の八十神(やそがみ)たちは「海水を浴びて風に当たれ」と嘘を教えるが、大国主命は「体を水で洗い、ガマの穂綿にくるまれ」と教え、白兎を救う。
よく知られた話だが、大国主命がなぜ出雲から因幡を訪れたかについてはあまり知られていない。その理由について、古事記では「八上比売に婚(あ)はむと欲(おも)ふ」と書かれている。大国主命は八十神たちとともに因幡の美女とうわさされた八上姫にプロポーズしようとしたのだった。
神話はこう続く。
感謝した白兎は「汝(なんじ)命(みこと)獲(え)たまはむ」と予言し、言葉通り八上姫は八十神たちではなく大国主命を選ぶ。
30年前から取り組み
売沼神社がある鳥取市河原町周辺には、大国主命の足跡を裏付けるようにゆかりの地名が付けられている。末弟であった大国主命は八十神たちの荷物を背負わされたが、その荷をつめた袋に由来する「布袋(ほてい)」、袋を置いた「袋河原(ふくろがわら)」、大国主命が八上姫への恋文(歌)を書いた「倭文(しとり)」だ。「円通寺(えんつうじ)」は2人が縁を通じた「縁通路」に由来するとされる。