鑑賞眼

PARCO劇場「迷子の時間-語る室2020-」 もどかしくも完成度の高い舞台

PARCO劇場オープニング・シリーズ「迷子の時間ー語る室2020ー」より、貫地谷しほり(左)、浅利陽介(加藤幸広撮影)
PARCO劇場オープニング・シリーズ「迷子の時間ー語る室2020ー」より、貫地谷しほり(左)、浅利陽介(加藤幸広撮影)

 亀梨和也の5年ぶりの舞台出演作にして初のストレートプレイ挑戦。そんな期待を抱いて見に行くと、その期待は裏切られるかもしれない。もちろん、良い意味で。

 ある田舎町で、幼稚園バスの運転手と園児1人が姿を消した。事件から5年となるその日、行方不明の子供を探し続ける母、二階堂美和子(貫地谷しほり)、その弟で事件の第一発見者だった警察官の譲(亀梨)、バス運転手の兄(忍成修吾)がバーベキューをするため集まっている。喪失感を抱えながら5年を過ごしてきた3人の間には、妙な絆が生まれている。

 そこへ現れる謎の霊媒師(古屋隆太)。青年(松岡広大)と一緒に町にやってきたのだが、青年は姿を見せない。さらに、落とし物をした兄(浅利陽介)と妹(生越千晴)が譲の交番を訪れ、と交番を中心に登場人物が交差する。

 事情を抱えた人物たちに振り回される亀梨の、地に足が付いた受け身の演技がいい。「亀梨らしさ」を消して舞台に溶け込み、5年ぶりとは思えない堂々たる舞台俳優ぶりだ。何をしでかすか分からない危なっかしい美和子を演じた貫地谷しほりも、特異な体験から再生していく様を自然にみせる。霊媒師役の古屋は、難しい役を人間臭く演じ最後まで走り切った。

 作・演出の前川知大の充実ぶりが伝わる完成度の高い脚本。なんといっても、「迷子の時間」というタイトルが秀逸だ。「子供の失踪」という「迷子」を扱った題材であることに加え、登場人物は皆、人生の迷い子ばかりだからだ。

 過去と現在と未来を平面で行き来することができる演劇ならではの手法で、関わりのなさそうな7人が実はつながっていることに観客は気づく。ところが、当の本人たちは1人を除いてそれに気づかないまま舞台は終わる。答えが分かれば楽になるのに、観客がそれを伝える術を持たないのがもどかしい。舞台と客席のはざまで観客も迷子になる。

 それだけに、佐久間の「私は答えを知らない。でも思い出す。想像することで」のせりふは、観客にとっても救いだ。「迷子の時間」が終わっても、夕暮れに響く防災無線のチャイムの音に、この舞台を思い出すことだろう。

 29日まで、東京・渋谷のPARCO劇場。12月8~13日、大阪・サンケイホールブリーゼ。03・3477・5858。(道丸摩耶)

 公演評「鑑賞眼」は毎週木曜日正午にアップします。

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