ゴーン被告逮捕2年、罪問う見通したたず 本人はネットで反論 日産も困惑

カルロス・ゴーン被告(桐原正道撮影)
カルロス・ゴーン被告(桐原正道撮影)

世界中を驚かせた日産自動車元会長、カルロス・ゴーン被告(66)の逮捕から19日で2年となった。昨年末にレバノンへ逃亡し、ゴーン被告本人を罪に問う見通しは立たないが、今秋になって報酬過少記載事件で共謀したとされる元代表取締役の刑事裁判や、日産がゴーン被告に約100億円の損害賠償を求める民事訴訟が始まった。ただ日産は一連の事件で「数百億円規模の損害」(同社関係者)を受けたとされ、「ゴーン・ショック」からの復興はまだ途上だ。

平成22~29年度のゴーン被告の役員報酬を有価証券報告書に約91億円過少に記載したとして、金融商品取引法違反(有価証券報告書の虚偽記載)の罪に問われた元代表取締役、グレゴリー・ケリー被告(64)と法人としての日産の公判は今年9月に始まった。ケリー被告は起訴内容を全面否認、日産は認めている。

公判では、東京地検特捜部との司法取引に応じた大沼敏明元秘書室長の証人尋問が続く。大沼氏はゴーン被告への未払い報酬があったとした上で、「開示を避けてどのように支払うかを検討してきた」などと具体的に証言している。

日産は、報酬過少記載をめぐり金融庁から約24億円の課徴金の納付も命令されており、刑事事件で有罪となった場合の罰金額と相殺し、支払う見込みだ。

■弁護側は争う姿勢

横浜地裁では今月13日、一連の事件に絡み日産がゴーン被告に約100億円の損害賠償を求める訴訟の第1回口頭弁論があった。100億円の内訳は、ゴーン被告が会社法違反(特別背任)罪に問われた、日産子会社からサウジアラビアの友人側へ送られたとする「サウジアラビアルート」の1470万ドル(約16億円)を筆頭に、多岐にわたる不正が含まれる。

主な不正は▽ゴーン被告の姉に対する実体のないアドバイザリー契約に対する報酬約8千万円▽レバノンの大学や出身校への寄付約3億2千万円▽ゴーン被告や家族による航空機の私的利用費約3億1千万円▽日本やフランス、オランダのマンション賃料約1億3千万円-など。

他にも過少記載事件に関し米証券取引委員会との和解で日産が支払った約16億3千万円、一連の事件の社内調査費など約28億5千万円が含まれ、ゴーン被告の弁護側は争う姿勢だ。

■予備費や金利優遇

100億円以外にも日産の損害は多額に上る。ゴーン被告は、オマーンの販売代理店、スハイル・バハワン自動車(SBA)に計1500万ドルを不正支出させたなどとする「オマーンルート」でも起訴された。この原資はゴーン被告自身が使途を決める予備費「CEOリザーブ」だが、SBAには24年以降、計約35億円が支払われたとされる。

ゴーン被告は「必要な報奨金」などと主張しているが、日産関係者は「CEOリザーブ自体、必要のないものだった」と切り捨てる。CEOリザーブは他の中東諸国の代理店の支払いにも使われていた。

さらに、SBAには、代金支払いの猶予期間や金利の優遇をし、逸失利益は10年で約80億円になるとの試算もある。日産の代理人は取材に「(ゴーン被告の不正に関して)損害賠償を請求できるものがあれば追加で請求する」と話す。

■「彼は何なのか」

ゴーン被告は11月3日、公式ツイッターを更新し、自らの主張などを発信するウェブサイトを立ち上げたと明らかにした。英語とフランス語で記され、日本の刑事司法制度を「人質司法」だとして「非人道的で外国人差別を伴う」と持論を展開。フランスでは「真実のとき」とのタイトルで共著本を出版した。

日産関係者は「ゴーン被告は確かに日産をV字回復させて多額の利益をもたらしたが、彼による一連の損失も少なくとも数百億円規模だ。結局、彼は何だったのか」と肩を落とした。

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