イスラム教の預言者ムハンマドへの風刺は「表現の自由」か、「宗教の冒涜(ぼうとく)」か。フランスの週刊紙が掲載した風刺画をめぐり、擁護する立場を示すマクロン仏大統領に対し中東やアジアで批判が拡大、過激派によるテロ事件も起きている。信仰を「至高」とみるイスラム諸国は、宗教への侮辱が「一線を越えた」と強調。一方、長い歴史の中で風刺文化を確立させてきた仏メディアは、自粛を求める声に強く反発している。
≪ポイント≫
・風刺画は18世紀の仏市民革命の原動力
・信仰に「至高の価値」置くイスラム教
・「一匹おおかみ」型のテロ増加に懸念
・対仏批判、米英などイスラム圏外でも
エジプト 宗教の冒涜は「大きな誤り」
パリ近郊の中学で、預言者ムハンマドの風刺画を授業中に使用した教員が殺害されたテロの後、フランス全土で教員への連帯が示された。これに対し、中東やアジアのイスラム圏では反発が広がり、抗議デモや仏製品の不買運動が拡大。フランスが「一線を越えた」という認識が、国境を超えて共有された。
中東のメディアでは、「表現の自由」として風刺を最大限に許容する姿勢を示すフランスのマクロン大統領への批判が集中した。
エジプトの政府系紙アハラム(電子版)は1日付で、「イスラム教とムハンマドへのあらゆる侮辱を強く非難し、攻撃をやめさせる権利がある」と強調し、マクロン氏が「宗教を冒涜する権利」を主張するのは「大きな誤りだ」と述べた。イスラム圏では、マクロン氏が大統領就任以来「挑発的な手法でイスラムを侮辱してきた」(汎アラブ紙ライヨウム)などと厳しい見方が相次いでいる。
イスラム教は信仰に「至高の価値」を置き、唯一神アッラーと預言者ムハンマドは無謬(むびゅう)の存在で他に並ぶものはないという立場だ。アッラーやムハンマドを絵画などで描写して風刺することに信徒は不快感を隠さない。
「暴力や殺人が否定されるべきなのは言うまでもないが、表現の自由は他人を傷つけない範囲にとどまるべきだ」(エジプトの30代主婦)。こうした見方が、一般のイスラム教徒の代表的な考え方といえる。