日中韓や東南アジア諸国連合(ASEAN)などが参加する地域的な包括的経済連携(RCEP)交渉が妥結し、15カ国が署名した。
環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)や日欧経済連携協定に続くメガ協定である。関税撤廃率やルール作りでTPPなどの高い水準には及ばないが、日本の貿易額の約5割を占める広域経済圏だ。中国、韓国とは初めての協定である。
世界的に保護主義の台頭が懸念される中、自由貿易の旗を振る日本がその基盤を強化できたことは大きい。コロナ禍で落ち込んだ日本経済を再び成長軌道に乗せるための起爆剤ともなり得よう。
そうであっても、RCEPが内包する危うさから目をそらすわけにはいかない。政治リスクの高い中国経済に過度に依存する危険性であり、軍事、経済一体での覇権追求を加速させる懸念である。
その点でインドの不参加は極めて残念だ。中国に対抗し得るインドの参加は日本政府が強く望んだことだった。合流を粘り強く働きかけなくてはなるまい。
中国は関税撤廃やルール分野で一定の譲歩をした。例えば、外国企業への技術移転要求を禁じたことなどは中国を念頭に置いた項目だ。受け入れたのは、米国との対立を踏まえて自国の経済圏作りを急いだためだろう。
想起すべきは、米中摩擦やコロナ禍で、サプライチェーン(供給網)を含む貿易・投資先として中国に頼る危うさがはっきりしたことだ。だから政府も企業の海外拠点の分散化を促してきた。RCEPで域内での中国の影響力が増せばこの流れが元に戻らないか。
日本が「自由で開かれたインド太平洋」を目指す背景には、国際ルールをないがしろにする中国に対抗する狙いがある。菅義偉政権が本来目指すべきは、ASEANやオーストラリア、インドなどが結びつく自由な経済圏だろう。RCEPに加わらなくても、インドとの連携強化は欠かせない。
併せて日本は、中国による協定の履行状況を厳しく監視すべきだ。デジタル分野を含めてRCEPのルールには甘さが残るのである。その順守はもちろん、経済大国の中国にはRCEP以上に公正で透明性のある経済を確立する責務もある。その点について米欧とともに改革を迫り続けることも等しく重要である。