働き方改革やテレワークの普及でオフィスの存在意義が問われている。これまで会社員は定時に出社し、机を並べて働くのが常識だったが、新型コロナウイルスの感染拡大を契機に柔軟な勤務形態への理解が広がった。ITツールで離れていても社内外のコミュニケーションが可能になるなか、オフィスの存在感は低下し、縮小や移転の動きが目立つ。一方で、私生活と切り離して仕事に集中し、同僚らと気軽に意見を交わせる場を求める声は根強い。時代の転換期を迎え、オフィスはどう変わるべきか。産経新聞社メディア営業局が、ニューノーマルのオフィスを提案するオカムラの協力を得て挑んだリニューアルの取り組みを通じて考える。
ゼロからイチを創る場に
高層ビルが建ち並び、スーツ姿の人々が行き交う東京・大手町。日本を代表するオフィス街の一角に建つ地上31階のビルの9階にメディア営業局は入る。
「うわ~、こんなに雰囲気が変わるんだ」「(事務机が)ウッディなデスクに変わって、カフェみたい」「モノが減ったから開放感がある」。9月28日月曜午前、週末にリニューアル作業を終えたオフィスに初めて足を踏み入れた社員は声を弾ませた。
自由に席を選べるフリーアドレスを新たに採用。局次長以下52人の固定席を廃止し、6~8人が共有する大型デスク5卓を設置した。テレワークの普及を踏まえて席数は計36席と半数近く減らし、社員同士が一定の距離を保ちつつ、交流できる空間づくりを目指した。併せて、外部と遮断した「集中ブース」を3カ所新設し、資料作成などの個人作業やオンライン会議に対応、立ちながら仕事ができる「昇降デスク」も導入している。
【リニューアルのポイント】
当初はどこに座るべきか戸惑いの表情を見せる社員もいたが、運用から1週間を過ぎるころにはほぼ定着。「他部署の先輩社員と自然に会話でき、コミュニケーションする機会が増えた」(20代男性社員)、「固定席は紙の資料や新聞が山積みだったけど、デスクがなくなったのでいまはペーパーレスを実践している」(40代女性社員)、「毎日気分を変えられ、快適なので積極的に出社している」(40代男性社員)など効果を実感する意見が上がる。
リニューアルを主導したひとり、デジタル・プロモーション部の野崎勇部次長は「個人作業はテレワークでもできるが、新たな発想を生み出すにはフェイストゥフェイスのコミュニケーションが不可欠。オフィスをゼロからイチを創る場に変えたかった。テレワークが当たり前になったいま、会社に来たいと思える環境作りを重視した」と語った。業務推進部の北村昭宏部長も「予想以上に出社率があがっている」と話す。
オープンなコミュニケーションとデジタル化
きっかけは働き方改革だった。昨年4月に働き方改革関連法が施行し、時間外労働の上限規制が厳格化した。多くの企業にとって業務の効率化が課題になる時機をとらえ、関連業界にアプローチ。オカムラもそのひとつだった。営業担当の日下紗代子らは、働き方改革においてオフィス環境を向上させることの意義を熟考した末、自らがモデル企業になる広告企画を提案。企画にリアリティをもたせ、等身大の視点を発信することで、変化へのハードルを下げたかった。実際、営業先のオフィスをいくつも訪れるなかで、勢いのある企業ほどアイデアが生まれそうな開放的な空間で仕事をしていると感じていた。自社の島型オフィスや、雑多で暗い雰囲気に違和感があった。働く人々にとって働きやすいオフィス環境とは何か。オカムラとともに考える一大プロジェクトがはじまった。
昨年6月には社員アンケートを実施し、「打ち合わせ・会議室スペースが足りない」(14件)「部内、他部との情報共有・コラボを促進したい」(9件)とコミュニケーションに関する不満や要望が多いことを把握。「紙が多い」「ものが多く整理されていない」(計12件)という紙文化の名残を感じる意見も目立ち、これまであまり考える機会もなかった働く環境への課題が、次々と浮き彫りになった。当初は一部スペースの改修を想定していたが、オカムラのコンサルタント部門から「オフィス全体の課題を洗い出し、解決につながるステップを踏むべき」と助言を受け、抜本的な改革に踏み切った。
実際、リニューアル前のオフィスは、担当業種によって分けた営業「1部」「2部」、ネット広告を担うデジタル部門の縦割りでデスクが並び、列を挟んだ他部署とは背中合わせ。紙面とネットの広告を組み合わせて提案するケースも多い時代にも関わらず、「部署が違うと些細な相談や打ち合わせを行うのにも様子がわからず精神的なハードルがあった」(クロスメディア2部)
また、大量の紙資料や回覧、ホワイトボードなどITで代替できる慣習が残り、業務効率に直結するデジタル化の遅れは明らかだった。教育業界を担当する社員は「書類に囲まれ、とても狭く圧迫感を感じていた」と振り返る。
アンケートやワークショップを経るにつれ、自分たちが日々過ごしていたオフィス環境への問題意識が高まった。みんながもっと働きやすい、仕事がしやすい職場はどういったものか。
部署の壁を超えたオープンなコミュニケーションや、急速に進むデジタル化に対応できるオフィスをつくりたい-リニューアルの方向性が固まってきた段階で、新型コロナの感染拡大が顕著になった。
変わるオフィスと働く意識
今年4月以降は全社的な出勤抑制で、テレワークやオンライン会議などの働き方が定着。全社員が定時に出社する機会がほぼなくなるなか、オフィスの役割も変わった。社員の働き方が変化し、さまざまな制約が加わる状況で、いかに安全で、快適な環境であるかが問われるようになった。限られた予算の中で何を優先すべきか。その答えが 「フリーアドレス」だった。
出社人数が日々変動する状況で、所属する社員数よりも少ない席数で運用が可能に。固定席はスペースのムダが多いうえ、机が密に並びアクリル板などの感染対策が必要になるが、フリーアドレスは席の埋まり具合に応じて座る位置を選べ、距離を保ちつつ顔の見えるコミュニケーションや、柔軟なチーム編成が可能。在席率の低いスペースの有効活用につながり、紙資料をデスクに置いておくなどの慣習もなくなるので、デジタル化の進展も期待できる。
考え方のベースとなったのは、オカムラが9月に公開した「ニューノーマルのワークプレイスを考える指針」だ。場所と時間を決め集まって働く「集中型」から、サテライトオフィスや自宅など場所と時間にとらわれずに働く「分散型」に変わりつつある状況をふまえ、新たなオフィスの在り方を発信している。
働き方コンサルティング事業部 WORKMILL X UNIT クリエイティブディレクターの神山里毅氏は「全員が出社していなくても事業を継続できるという経験により、働き方や働く場の選択肢はさらに広がった。フリーアドレスは社員各々が働きやすい席を自由に選択できるため、生産性の向上や社員の自律性向上なども期待できる。リモートワークでは失われがちな雑談の機会なども生まれ、結果的に所属部署などを越えたコミュニケーションを誘発する」とフリーアドレスをベースとしたオフィスの再構成の効果を話す。
一方、部署やチームの一体感の維持などへの意識として、神山氏はオンラインと対面の両面のコミュニケーションの必要性を指摘する。一つがテレワークで普及したビジネスチャットなどの最大限活用。そしてフェイスtoフェイスの機会をつくるため、週1回の出社日を合わせるなど「緩やかなつながりを維持していくことも重要」(神山氏)
そのほかにも、新型コロナの不安などの観点から、リニューアルを担った社内チームは離席時の除菌スプレー散布などルールを策定し、運用を徹底している。
メディア営業局ではリニューアルから1カ月を経て、他局からの往来が増えるなど効果が表れている。オープンで活気づき、他部署の管理職と現場との会話も新たに生まれた。オフィスの変化を家族に自慢したという社員や、意識的に違う席を選ぶことで、毎日新鮮な気持ちで仕事に取り組め良い影響が出ているとの声もあった。
現場の意見を変化のチャンスととらえ、リニューアルを後押しした近藤豊和局長は「これからの時代は、マネジメントは固定席でする時代ではない。管理職から率先しないと、働き方は変わらない」と、社員同士がフラットな関係を築く契機となることを期待する。
働き方が多様化し、在宅やコワーキングスペースなど仕事場の選択肢が広がり、オフィスの存在意義が問われている。「今回のリニューアルを通じて些細な環境の変化でも気持ちに変化が起きることがわかった。ブラインドを開け、入口の荷物を片付けただけでも雰囲気が一変し、環境が整うことで出社の目的も明確になった。現場の声から思い切って会社全体を巻き込み、最後までやり遂げることができてよかった。この試みが全社に波及する起爆剤になれば嬉しい」(日下)
⇒「NEW NORMAL WORKPLACE PRINCIPLE / ニューノーマルのワークプレイスを考える指針」はこちら
【リニューアル動画はこちら】
提供:株式会社オカムラ