勇者の物語

疑惑の中日戦 なぜ江夏を先発させたのか 虎番疾風録番外編107

中日球場のそばを新幹線が通過。窓からのぞく巨人の選手たち
中日球場のそばを新幹線が通過。窓からのぞく巨人の選手たち

■勇者の物語(106)

第2戦は南海が山内、阪急は山田が先発。試合は住友の2打席連続本塁打などで阪急が9-7と打ち勝ち、対戦成績を1勝1敗に戻した。

だが、世間の注目は大阪球場ではなかった。同じ10月20日、中日球場で行われた「中日-阪神戦」に集まっていた。

阪神が首位。1ゲーム差で巨人。この中日戦に阪神が勝てば9年ぶりのリーグ優勝が決まった。

阪神の先発投手は誰もが「上田」と予想した。この年、上田は22勝を挙げ対中日戦8勝1敗。ところが、マウンドに上がったのは「江夏」だった。江夏は24勝。中日戦は3勝1敗。中日球場では昭和46年8月29日以来、勝ち星がなかった。藤村隆男投手コーチは「江夏の勝負強さに賭けた」という。

◇10月20日 中日球場

阪神 100 100 000=2

中日 002 100 01×=4

【勝】星野仙16勝11敗 【敗】江夏24勝13敗 【本】木俣⑨(江夏)

阪神の賭けは「凶」と出た。一回、田淵の中犠飛で1点を先行するものの、三回、谷沢に中前へ逆転の2点タイムリー。同点に追いついた四回には木俣に痛恨の決勝のホームランを打たれた。

阪神が敗れ優勝の行方は21日の今季最終戦「阪神-巨人」(甲子園)に持ち込まれた。勝った方が優勝-というプロ野球史上初の大決戦。その最終決戦へ向かう巨人ナインを乗せた新幹線が、中日球場のそばを通過した。

なぜ江夏が先発したのか-。タイガースの球団史『昭和のあゆみ』にはこう記されている。

「中日に絶対的な自信を抱いていた上田をおいて江夏に運命を託したのは、上田が風邪気味で体調不十分ということもあった」。上田は数日前から扁桃腺(へんとうせん)を腫らし微熱が続いていたのである。そして江夏も後年、自伝『左腕の誇り』(草思社)の中でこう語っている。

「あとで中日戦は上田で巨人戦は江夏でいけばよかったという声もあったけれど、それは結果論であって、あと1勝すればいいとなったら、勝ち星の多い方からいくのは当然です。残念な結果になったんですが、僕は今でもあれは正攻法だったと思う。僕の力が及ばなかったから負けたということです」(敬称略)

■勇者の物語(108)

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